隣の席の佐竹くんには…

引かれるがままに辿り着いたのは、図書室だった。

文化祭中は使用されていない、唯一静かな場所。

ガヤガヤとした賑わいの音が、扉一枚隔てただけで、ずいぶん遠くなる。


「……あ、あの…佐竹君?」

手を引かれたまま、戸惑いながら名前を呼ぶ。

佐竹君は、扉の前で立ち止まると、ようやくこちらを向いた。

お互いに息が整わないまま、視線が交わる。

「…いきなり、ごめんね」

「なにかあったの…?」

焦りや余裕のなさが、そのまま伝わってきて、心配になった。

もしかして、他校の女子にでも追われてた?

いや、でも、最強の盾のような存在の松野さんがいるんだから……


……あれ?

「松野さんは…どうしたの?」

その問いに、佐竹君は、ふぅ…と息をつき、呼吸を整える。


「さっき…別れてきた」

「えっ!?」

急展開すぎて、驚きの声しか出せなかった。

「ていうか…オレは付き合っていたつもりはなかったんだけど…」

言葉を選びながら、佐竹君はぽつりぽつりと話す。


「色々あって…付き合わないといけなくて…全部を説明すると長くなっちゃうんだけど…」

「…うん」

「とにかく…松野さんとは、もうなんでもなくなった」

「……そう、なんだ」

二人は付き合ってなかったんだ…。

その事実に、どう反応していいかわからず、曖昧に頷く。

喜んでいいのか、戸惑えばいいのか、感情がうまく整理できない。


それでも、目の前でどこか余裕がない中にも、熱が籠った瞳を揺らしてる佐竹君をみて、胸の鼓動が早くなる。


沈黙が落ちる。


やがて、佐竹君が静かに名前を呼んだ。

「梅沢さん」

「…は、い」

「オレ…ずっと伝えたかったことがあるんだ」

心臓が、大きく跳ねた。


佐竹君の言葉に、期待してはいけないと、何度も自分に言い聞かせてきたはずなのに。


体が、勝手に緊張していく。