「どうしたの、梅?誰か呪ってるの?」
「違う。神頼みしてるの」
「え、なにそれー」
机に座って祈りのポーズをしている様子に、七恵がケラケラと笑う。
『梅』こと、梅沢 雅、高校二年生。
ポーカーフェースで、感情が読みづらいらしい。
よく誤解される。
「だって、これから席替えでしょ」
「たかが席替えで大袈裟だなぁ」
「夏休みの間、ずっと席のこと考えてたんだから」
「あははー!それ、自分のこと呪ってるじゃん。呪縛だよー!」
「だから呪いじゃないんだって…」
こういった会話のやり取りはいつものこと。
祈りのポーズを解き、ジロリと隣に目をやる。
先程から思った事を悪びれずサラッと言っちゃってる友人、桜井 七恵。
サラリとしたロングヘアに整った顔立ち。
いわゆる美女だ。
「けど、珍しいね。あらゆるものに興味示さなそうな梅が席のこと気にするなんて」
確かに普段あまり興味を持つことないけど。
淡々と毎日を過ごしてますけど。
「この席、好きな人なんている?」
そう言って嫌悪を表すように自分の机の上をバンと両手で叩く。
一番前。
しかも教壇の目の前。
この席に座って日々過ごしていると、次第に先生に監視されてるんじゃないかという被害妄想にかられてくるし睡魔に襲われた時なんて、白目になりながらも必死に眠気と戦っている。
だから、今日の席替えはすごく重大なのだ。
贅沢は言わない。
あと二席だけでいい。
後ろに下がりたい。
そんな思いを込めながら、机に向かって手のひらを合わせて精神統一をする私に、七恵は「やっぱり机を成仏させてるみたい」と笑った。
「でもさ、席替えと言ったら隣が気になるところだよね。梅は誰の隣になりたいとかないの?」
「隣は重要じゃない」
「私はねー、隣になった男子と気づいたら恋に発展!とかちょっと憧れてるんだよねー!」
「いいですね」
余裕で。
「梅も机成仏させることより、恋愛要素取り入れて想像してみてよ!」
「だから成仏させてないんだって」
「いつか梅の恋バナ聞いてみたいなー」
…恋、ねぇ…。
今まで好きになった人なんていないし、そもそも物事に対してあまり興味を持ったことがない。
そんな人間が恋だなんて。
するはずないし、できるはずもない。
……こういうところが、“つまらない”って言われる理由なんだろう。
ふと、昔の記憶が甦りそうになったけど蓋をした。
…“あの時”みたいな思いはしたくない。
