美月が達也に出した条件
それは……
「コラボカフェに一緒に行って」
「私が欲しいコースター集め手伝ってよ」
だった
美月はいったん部屋へ戻って着替えを済ませると
怜司と達也を連れて期間限定のコラボカフェへやってきた
そして今
三人は店の奥にある少し大きめの丸テーブルを囲んでいた
美月の右隣には怜司、左隣には達也が座っている
テーブルの上には、色とりどりのドリンクが十二杯並んでいた
赤、青、黄色、紫、緑
グラスには花や果物が飾られ、それぞれに異なる王子の名前が書かれた札が添えられている
外出用の姿に切り替えた美月が
十二枚のコースターをテーブルへ並べ、満足そうに眺めた
「よし!」
「全員分そろった」
「数こそはパワーよ!」
達也が呆れたように呟いた
「本当に十二杯も頼みやがった……」
「飯を奢るとは言ったけどよ」
「どうすんだよ、こんなに注文しちまって」
「コースターはドリンク一種類につき一枚なの」
「十二人いるんだから、十二杯頼むしかないでしょ」
「『しかない』ってなんだ」
「一人一杯でいいだろ」
「それだと足りないじゃない」
「私の話、ちゃんと聞いてた?」
「三人で四杯ずつ飲むのよ、残すのはマナー違反だからね」
「手伝ってよ」
美月は達也の前へ、赤、黒、紫、橙色のドリンクを押し出した
「達也さんは、黒から飲んでね」
「お店にいる子達も期待してるんだから」
「第二王子のイメージドリンクなの」
「第二王子?」
美月が一枚のコースターを指差した
そこには、短い茶色の髪に鋭い目つきをした王子が描かれている
赤みのある紺色の衣装をまとい、右耳には宝石のついた耳飾りをつけていた
達也はコースターに描かれたキャラクターをまじまじと凝視する
「……これ……俺じゃね?」
店のあちこちから、女性客のひそひそ声が聞こえてくる
「あの二人、モデルじゃない?」
「新しい舞台版のキャスト?」
「第一王子と第二王子、そのままだよね」
「どっちが攻めだと思う?」
達也の眉間に深いしわが寄った
声がした方向を向く
「おい、最後のどういう意味だ」
「気にしないほうがいいわよ」
「見た目のわりに肝が小さいのね」
「子犬みたいにキョロキョロしないでよ、恥ずかしい」
「美月さんって、結構いい性格してるよな」
「遠慮ってものはねえのか」
「俺たち初対面だろ?」
「私の家のドアをバンバン叩いた人がなに言ってんのよ」
「こういう態度はあなた達用よ」
「ママに教わったんだから」
「教わった? なにを?」
「失礼な男への接し方」
一方、怜司は周囲の声など耳に入っていない様子で
一枚のコースターを見つめていた
黒く長い髪
感情の読み取れない瞳
冷たさすら感じさせる整った顔立ち
王族らしい白い衣装を身にまとった、物語の第一王子だった
髪型や衣装こそ違うが、顔立ちも雰囲気も怜司によく似ている
怜司はコースターを持ち上げ、美月へ向けた
「美月が最も好きなのは、この人物か?」
「そうよ」
「なぜだ?」
「格好いいから」
「具体的には?」
美月は少し考えてから、指を折りながら答えた
「冷静で、頭がよくて、何があっても動じなくて」
「いつも国民のことを考えていて、責任感も強いの」
「一見冷たそうだけど、本当は誰よりも優しいところも好き」
怜司は第一王子のコースターを見つめた
それから、自分の顔を指差す
「俺と何が違う?」
「そういうことを聞いてくるところじゃない?」
美月は軽く答えると、推しのイメージドリンクへストローを差した
淡い青色の炭酸に、銀色の砂糖菓子が浮かんでいる
怜司はもう一度コースターへ目を落とす
「外見も性格も、俺と大きな差はないはずだ」
「それ、自分で言う?」
「美月の説明を客観的に比較した結果だ」
「そういうところも違うのよ」
「どこが違う?」
「自分で考えて」
怜司はしばらく美月を見つめていた
しかし答えが得られないと判断したのか、静かに席を立った
「少し席を外す」
怜司はそう言い残し店の奥へ向かって歩いていった
達也が黒いドリンクを一口飲み、顔をしかめる
「なんだこれ、甘すぎるぞ」
「第二王子の激重愛を表現したドリンクだからね」
「激重愛?」
「なんだよ、それ」
「だから、気にしないほうがいいわよ」
美月が笑いながら振り返ると、怜司はお手洗いとは違う方向へ歩いていた
女性店員の前で足を止め、第一王子のコースターを見せている
店員は驚いたように怜司とコースターを見比べた
怜司が真剣な顔で尋ねる
「俺とこの人物は、何が違うと思う?」
女性店員の顔が、一瞬で赤くなった
「え、あの……」
「実物のほうが格好いいです……」
「外見ではなく、内面について聞いている」
「内面!?」
怜司は店員からいくつか意見を聞くと
今度は隣のテーブルへ向かった
そこには、第一王子のグッズを大量に並べた二人組の女性客が座っている
「突然すまない」
「俺とこの第一王子は、何が違う?」
「えっ」
「ええっ!?」
席に座る女性達は慌てた声を上げた
美月は勢いよく立ち上がった
つかつかと怜司に詰め寄る
「何やってるのよ、怜司君!」
「迷惑かけないでよ!」
「美月が教えてくれないため、詳しい者に意見を求めている」
「聞いて回らなくていいから!」
「そんなこと聞いてどうするのよ?」
怜司は納得していない様子で、第一王子のコースターを見つめた
「だが、違いが分からなければ改善できない」
「情報収集をしているだけだ」
「美月は席で待っていてくれ」
その言葉を聞いた女性客たちが、ざわつき始めた
どうやら怜司の変な行動を、何かの演出だと勘違いしたらしい
「待って、これ舞台版の宣伝イベントでしょ!?」
「やっぱりキャストの人なんじゃない?」
「今回のキャスト、再現度高すぎ!」
「いつから始まるのかな?」
「尊い……」
「絶対に見に行く」
達也は頬杖をつきながら、深いため息を吐いた
「美月さん、怜司がそうなったら気が済むまでやめないぜ」
「もう放っておいてこっちきて座りなよ」
「俺の話……聞いてくれるんだろ?」
それは……
「コラボカフェに一緒に行って」
「私が欲しいコースター集め手伝ってよ」
だった
美月はいったん部屋へ戻って着替えを済ませると
怜司と達也を連れて期間限定のコラボカフェへやってきた
そして今
三人は店の奥にある少し大きめの丸テーブルを囲んでいた
美月の右隣には怜司、左隣には達也が座っている
テーブルの上には、色とりどりのドリンクが十二杯並んでいた
赤、青、黄色、紫、緑
グラスには花や果物が飾られ、それぞれに異なる王子の名前が書かれた札が添えられている
外出用の姿に切り替えた美月が
十二枚のコースターをテーブルへ並べ、満足そうに眺めた
「よし!」
「全員分そろった」
「数こそはパワーよ!」
達也が呆れたように呟いた
「本当に十二杯も頼みやがった……」
「飯を奢るとは言ったけどよ」
「どうすんだよ、こんなに注文しちまって」
「コースターはドリンク一種類につき一枚なの」
「十二人いるんだから、十二杯頼むしかないでしょ」
「『しかない』ってなんだ」
「一人一杯でいいだろ」
「それだと足りないじゃない」
「私の話、ちゃんと聞いてた?」
「三人で四杯ずつ飲むのよ、残すのはマナー違反だからね」
「手伝ってよ」
美月は達也の前へ、赤、黒、紫、橙色のドリンクを押し出した
「達也さんは、黒から飲んでね」
「お店にいる子達も期待してるんだから」
「第二王子のイメージドリンクなの」
「第二王子?」
美月が一枚のコースターを指差した
そこには、短い茶色の髪に鋭い目つきをした王子が描かれている
赤みのある紺色の衣装をまとい、右耳には宝石のついた耳飾りをつけていた
達也はコースターに描かれたキャラクターをまじまじと凝視する
「……これ……俺じゃね?」
店のあちこちから、女性客のひそひそ声が聞こえてくる
「あの二人、モデルじゃない?」
「新しい舞台版のキャスト?」
「第一王子と第二王子、そのままだよね」
「どっちが攻めだと思う?」
達也の眉間に深いしわが寄った
声がした方向を向く
「おい、最後のどういう意味だ」
「気にしないほうがいいわよ」
「見た目のわりに肝が小さいのね」
「子犬みたいにキョロキョロしないでよ、恥ずかしい」
「美月さんって、結構いい性格してるよな」
「遠慮ってものはねえのか」
「俺たち初対面だろ?」
「私の家のドアをバンバン叩いた人がなに言ってんのよ」
「こういう態度はあなた達用よ」
「ママに教わったんだから」
「教わった? なにを?」
「失礼な男への接し方」
一方、怜司は周囲の声など耳に入っていない様子で
一枚のコースターを見つめていた
黒く長い髪
感情の読み取れない瞳
冷たさすら感じさせる整った顔立ち
王族らしい白い衣装を身にまとった、物語の第一王子だった
髪型や衣装こそ違うが、顔立ちも雰囲気も怜司によく似ている
怜司はコースターを持ち上げ、美月へ向けた
「美月が最も好きなのは、この人物か?」
「そうよ」
「なぜだ?」
「格好いいから」
「具体的には?」
美月は少し考えてから、指を折りながら答えた
「冷静で、頭がよくて、何があっても動じなくて」
「いつも国民のことを考えていて、責任感も強いの」
「一見冷たそうだけど、本当は誰よりも優しいところも好き」
怜司は第一王子のコースターを見つめた
それから、自分の顔を指差す
「俺と何が違う?」
「そういうことを聞いてくるところじゃない?」
美月は軽く答えると、推しのイメージドリンクへストローを差した
淡い青色の炭酸に、銀色の砂糖菓子が浮かんでいる
怜司はもう一度コースターへ目を落とす
「外見も性格も、俺と大きな差はないはずだ」
「それ、自分で言う?」
「美月の説明を客観的に比較した結果だ」
「そういうところも違うのよ」
「どこが違う?」
「自分で考えて」
怜司はしばらく美月を見つめていた
しかし答えが得られないと判断したのか、静かに席を立った
「少し席を外す」
怜司はそう言い残し店の奥へ向かって歩いていった
達也が黒いドリンクを一口飲み、顔をしかめる
「なんだこれ、甘すぎるぞ」
「第二王子の激重愛を表現したドリンクだからね」
「激重愛?」
「なんだよ、それ」
「だから、気にしないほうがいいわよ」
美月が笑いながら振り返ると、怜司はお手洗いとは違う方向へ歩いていた
女性店員の前で足を止め、第一王子のコースターを見せている
店員は驚いたように怜司とコースターを見比べた
怜司が真剣な顔で尋ねる
「俺とこの人物は、何が違うと思う?」
女性店員の顔が、一瞬で赤くなった
「え、あの……」
「実物のほうが格好いいです……」
「外見ではなく、内面について聞いている」
「内面!?」
怜司は店員からいくつか意見を聞くと
今度は隣のテーブルへ向かった
そこには、第一王子のグッズを大量に並べた二人組の女性客が座っている
「突然すまない」
「俺とこの第一王子は、何が違う?」
「えっ」
「ええっ!?」
席に座る女性達は慌てた声を上げた
美月は勢いよく立ち上がった
つかつかと怜司に詰め寄る
「何やってるのよ、怜司君!」
「迷惑かけないでよ!」
「美月が教えてくれないため、詳しい者に意見を求めている」
「聞いて回らなくていいから!」
「そんなこと聞いてどうするのよ?」
怜司は納得していない様子で、第一王子のコースターを見つめた
「だが、違いが分からなければ改善できない」
「情報収集をしているだけだ」
「美月は席で待っていてくれ」
その言葉を聞いた女性客たちが、ざわつき始めた
どうやら怜司の変な行動を、何かの演出だと勘違いしたらしい
「待って、これ舞台版の宣伝イベントでしょ!?」
「やっぱりキャストの人なんじゃない?」
「今回のキャスト、再現度高すぎ!」
「いつから始まるのかな?」
「尊い……」
「絶対に見に行く」
達也は頬杖をつきながら、深いため息を吐いた
「美月さん、怜司がそうなったら気が済むまでやめないぜ」
「もう放っておいてこっちきて座りなよ」
「俺の話……聞いてくれるんだろ?」
