勝負が始まった
ジョッキになみなみと日本酒が注がれた
一杯目
まずは真帆が一気に飲み干した
小さく息を吐く
「お父さんはやりすぎなのよ!」
「娘は牛や豚じゃないの!」
「勝手に決めないで!」
父親もジョッキの日本酒を一気に飲み干す
「だから今まで自由にさせてきた」
「真帆は来年で27だ」
「放っておいたら何歳まで独身でいる気なんだ」
「浮いた話一つ聞こえてこん!」
二杯目
また真帆は一気に飲み干す
「私に彼氏ができなかったのって」
「お父さんも悪いんだからね!」
「大学生の時だって」
「ちょっといい感じの人ができたのに」
「『俺より強くないと駄目だ』とか言って」
「大学まで乗り込んできたでしょ!?」
「あれ一発で淡い恋なんか吹き飛んだのよ!」
「しかもそのあと」
「真帆に手を出したらやばいザンギエフが来るって噂が広まって!」
「男がみんな私を恋愛対象から外したんだからね!」
「それまでは私」
「モテてたんだからね!」
「せっかくの大学デビューを返してよ!」
父親もまた一気に飲み干した
「ああ、あのもやし野郎か」
「ちょっと話しかけたら子犬のように逃げて行った」
「あいつじゃダメだ」
「真帆には男を見る目がない」
「だったら、俺が選んでやる」
三杯目
真帆が一気に飲み干す
「見る目がないのはお父さんでしょ!?」
「なんで基準が強さなのよ!?」
「ゴリラの写真ばっかり送ってこないでよ!」
「私は筋肉だるまみたいな男は嫌いなの!」
「お父さんを思い出すから!」
父親が一気に飲み干す
「もやしにも達也のような男がいる」
「そこについては妥協してやる」
「達也だと何か問題でもあるのか?」
「そういう問題じゃないのよ!」
「なんでお父さんが勝手に決めるの!?」
「家畜と一緒にするなって言ってるでしょ!」
「ばかなんじゃないの!?」
あっという間に一升瓶が空になる
達也は畳に座って呆れながら二人を見る
「やっぱ……親子だな……」
「だんだん」
「違う生き物に見えてきたぜ」
達也の隣に母親が正座で座っている
「あれが」
「あの人たちの話し合いなんですよ」
二人は言い争いを続けながら飲み続けた
やがて
2本目の一升瓶が空になった
真帆は頬を赤くして小さく揺れていた
父親も顔を真っ赤にしている
それでも二人はジョッキを持ち上げた
「まだまだだからね……」
「今日こそ……」
「ギャフンと言わせる」
達也は心配そうに真帆の顔を覗き込む
「真帆さん、大丈夫かよ」
「なんか揺れてるぞ」
「これは……」
「私の戦いなの」
「男はすっこんでなさいよ」
真帆はまた酒を飲み干した
「ほら……」
「次……」
父親は自分のジョッキに新しい酒を注いで
一気に飲み干して真帆を見る
真帆は酒瓶に手を伸ばす
その瞬間
ぐらり
真帆の身体が傾いた
「おっと!」
達也が慌てて真帆の肩を支える
「真帆さん?」
「まだ……」
「負けてない……」
「まだ……」
真帆はそのままぐったりと力を失い
達也は真帆の身体を支えたまま
その顔を覗き込む
「ああ、負けてねえよ」
「真帆さんは」
「かっこいいぜ!」
父親はぐったりした真帆をしばらく見る
もう起き上がらないことを確認すると
父親が拳を上げた
「勝った!」
「母さん!」
「明日にでも見合い相手へ連絡を――」
「待てよ」
達也が真帆をゆっくりと横たえる
「まだ終わってねえだろ」
「なんだ?」
「次、俺な」
父親の鋭い眼光が達也に向いた
「なんのつもりだ」
達也は横たわる真帆を一度見る
口元を少し上げて
父親へ向き直った
「俺は真帆さんの友達だ!」
「助太刀するぜ!」
横たわった真帆の指先が
ほんの少しだけ動いた
「これは真帆と俺の勝負だ!」
「1対1なんて、聞いてねえぞ!」
「女一人が相手じゃねえと勝てねえのか!」
「ビビってんのかよ!?」
「なんだと!?」
「いいだろう」
「達也が潰れるまでは待ってやる!」
「乾杯だ、親父さん!」
今度は達也の一杯目
ジョッキになみなみと日本酒をついで
一気に飲もうとする
しかし途中でむせてせき込んだ
「ゲホゲホゲホゲホ」
「日本酒ってこんな飲み方するものじゃねえだろ!?」
「もう終わりか?」
「うるせえ!」
「まだ余裕だぜ!」
達也は両目をつむってまた飲み始める
1杯目のジョッキが空になった
「へ……」
「どうだよ」
どさっ
「おれは……まだ……」
達也は酒がまわってもうろうとする
父親がジョッキを飲み干した
「弱い!」
「期待させやがって!」
「母さん、まずはあいつが良いんじゃないか?」
「レスリング全国の――」
その時
真帆から達也に受け継がれたジョッキに
日本酒がなみなみと注がれた
真帆の母親がそれを手に取る
そして
一気に飲み干して声をあげた
「ぷは~」
「なんのまねだ」
母親は先ほどの達也のセリフをまねた
「私は真帆の母親だ~」
「助太刀するぜ~!」
父親がくすりと笑った
「分かった、言ってみろ」
「もう少し」
「見てみたいんですよ」
母親は真帆と達也に目を向けた
「ひょっとしたら」
「ひょっとするんじゃありません?」
「そうみえるか?」
「全然見えません」
「お互いに何とも思ってませんね~」
「だろ?」
その時
小さな声が聞こえた
「まちなさいよ……」
父親と母親が振り返る
真帆がゆっくり身体を起こしていた
達也は畳に突っ伏したまま
定まらない目を真帆に向ける
「ま……ほさん……」
真帆は額を押さえながら
達也を見る
「達也さん」
「なにやってんの?」
「助太刀……」
「したんだけどよ……」
「一杯で潰れてんじゃないわよ」
「情けないわね」
「ジョッキで飲む方がおかしいんだよ……」
真帆は小さく笑う
それから母親を押しのけるようにしてジョッキを掴んだ
父親を睨みつける
「お父さん!」
「まだ終わってないから!」
「続きよ!」
父親の口元が上がる
「面白い!」
「来い!」
母親が嬉しそうに二人のジョッキに
日本酒を注いだ
真帆と父親が同時にジョッキを持ち上げる
真帆は残った力を振り絞るように
一気に飲み干した
父親も酒を口へ運ぶ
やがて
父親の巨体がぐらりとゆれる
「あなた?」
父親の巨体がゆっくり畳へ倒れた
真帆はしばらく父親を見る
それから
空になったジョッキをテーブルへ置いた
父親のジョッキを見る
まだ半分以上も残っていた
確かめるように
倒れた父親を見つめる
その口元が
少しずつ
少しずつ
吊り上がっていく
やがて両手をぎゅっと握りしめる
真帆の肩が小刻みに震える
そして
真帆は思いっきり両手を高く上げた
「しゃあああ!!!!」
「私の勝ちよ!!」
「ついに……」
「ついに!!」
「ばか親父にギャフンと言わせてやったわ!!!!」
母親がにこりと笑う
「真帆の勝ちね~」
「やった……」
真帆もその場へ倒れ込んだ
達也が定まらない目で真帆を見る
「やった……な」
「まほ……さん……」
「……ぐふ……」
母親は二人に声を掛けながら
少しずつ水を飲ませた
二人が寝息を立て始めると
母親は二人を横向きに寝かせて
薄手の毛布を掛けた
それから、母親は父親のそばへ行き
頭の上にしゃがみ込む
その顔を覗き込んだ
「お優しいことで~」
母親は父親のおでこを撫でた
「よくできました~」
「素敵ですよ~」
「惚れなおすわ~」
母親は楽しそうに笑った
やがて
家の中には
三人の寝息だけが残った
翌日の昼過ぎ
達也の車は東京へ向かって走っていた
助手席には真帆が座っている
「頭痛い……」
「俺も……すげえ気持ち悪い」
「真帆さんも親父さんも強過ぎだろ……」
「本当に人間なのか?」
真帆は額を押さえる
窓の外を眺めながら
父親の言葉を思い出す
『約束は約束だ』
『もう見合いは持ってこん』
『いい男くらい、自分で見つけろ』
「いい男ねえ……」
「どうやって見つければいいのよ」
達也は前を見たまま笑う
「真帆さんなら」
「普通に見つかるって」
「簡単に言うね」
真帆は少し黙った
「あ!」
何かを思いついたように
達也を見る
「それならさ、達也さん」
「誰かいい人、紹介してよ」
「私も、大学時代の友達紹介できるよ」
達也は笑った
「俺はいいよ」
「しばらく恋愛する気ねえし」
真帆が眉を寄せる
「じゃあ私には?」
達也は少し考える
「あの親父さんに会わせても」
「平気そうな奴が思いつかねえ」
真帆が肩を落とした
「だよねえ~……」
「結局、お父さんのせいで彼氏できないのよ」
達也は前を見たまま笑った
「それもあるけどよ」
「真帆さんがその気になったら」
「相手はすぐに捕まると思うぜ」
真帆は少しだけ窓の外を見る
「そうかな……」
「そうは思えないんだけど……」
「そうだよ」
「あの手料理食べさせりゃ、一発だぜ」
「マジで美味かった」
「食べられる奴が羨ましいくらいだな」
「え? そうなの?」
「だったら」
「週末に食べにくればいいじゃん」
「は?」
「だから、食べたいんでしょ?」
「いや」
「俺も一応男だぜ?」
「ちょっと警戒心なさすぎねえか?」
「心配になるぜ」
「なにを想像してんのよ」
「私、週末に親戚のおじさんの喫茶店を手伝ってるの」
「休日ランチは大抵私が作ってるから」
「食べに来れば~って話」
「最初からそう言えよ!」
「あ~これだから」
「リアルの男は嫌なのよ」
「そういうのは男同士でなんとかしなさい」
「どういう話だそれ!?」
車はそのまま
東京へ向かって走っていった
* * * 真帆の母より * * *
「真帆の母です~」
「うちの子がお世話になっております」
「私から皆さまにお伝えしたいことがありま~す」
「うちの家族は昔からみんな」
「と~ってもお酒に強い家系なんです」
「達也ちゃんも」
「普通の人にしては」
「お酒に強いほうなんですけどね~」
「お父さんとは気が合うから」
「会うと、つい」
「無茶しちゃうんですよね~」
「それでも」
「こんな飲み方はとっても危ないですからね~」
「絶対に一気飲みなんてしちゃダメ」
「真似しないでくださいね~」
「お酒は楽しく」
「自分のペースで飲みましょう~」
ジョッキになみなみと日本酒が注がれた
一杯目
まずは真帆が一気に飲み干した
小さく息を吐く
「お父さんはやりすぎなのよ!」
「娘は牛や豚じゃないの!」
「勝手に決めないで!」
父親もジョッキの日本酒を一気に飲み干す
「だから今まで自由にさせてきた」
「真帆は来年で27だ」
「放っておいたら何歳まで独身でいる気なんだ」
「浮いた話一つ聞こえてこん!」
二杯目
また真帆は一気に飲み干す
「私に彼氏ができなかったのって」
「お父さんも悪いんだからね!」
「大学生の時だって」
「ちょっといい感じの人ができたのに」
「『俺より強くないと駄目だ』とか言って」
「大学まで乗り込んできたでしょ!?」
「あれ一発で淡い恋なんか吹き飛んだのよ!」
「しかもそのあと」
「真帆に手を出したらやばいザンギエフが来るって噂が広まって!」
「男がみんな私を恋愛対象から外したんだからね!」
「それまでは私」
「モテてたんだからね!」
「せっかくの大学デビューを返してよ!」
父親もまた一気に飲み干した
「ああ、あのもやし野郎か」
「ちょっと話しかけたら子犬のように逃げて行った」
「あいつじゃダメだ」
「真帆には男を見る目がない」
「だったら、俺が選んでやる」
三杯目
真帆が一気に飲み干す
「見る目がないのはお父さんでしょ!?」
「なんで基準が強さなのよ!?」
「ゴリラの写真ばっかり送ってこないでよ!」
「私は筋肉だるまみたいな男は嫌いなの!」
「お父さんを思い出すから!」
父親が一気に飲み干す
「もやしにも達也のような男がいる」
「そこについては妥協してやる」
「達也だと何か問題でもあるのか?」
「そういう問題じゃないのよ!」
「なんでお父さんが勝手に決めるの!?」
「家畜と一緒にするなって言ってるでしょ!」
「ばかなんじゃないの!?」
あっという間に一升瓶が空になる
達也は畳に座って呆れながら二人を見る
「やっぱ……親子だな……」
「だんだん」
「違う生き物に見えてきたぜ」
達也の隣に母親が正座で座っている
「あれが」
「あの人たちの話し合いなんですよ」
二人は言い争いを続けながら飲み続けた
やがて
2本目の一升瓶が空になった
真帆は頬を赤くして小さく揺れていた
父親も顔を真っ赤にしている
それでも二人はジョッキを持ち上げた
「まだまだだからね……」
「今日こそ……」
「ギャフンと言わせる」
達也は心配そうに真帆の顔を覗き込む
「真帆さん、大丈夫かよ」
「なんか揺れてるぞ」
「これは……」
「私の戦いなの」
「男はすっこんでなさいよ」
真帆はまた酒を飲み干した
「ほら……」
「次……」
父親は自分のジョッキに新しい酒を注いで
一気に飲み干して真帆を見る
真帆は酒瓶に手を伸ばす
その瞬間
ぐらり
真帆の身体が傾いた
「おっと!」
達也が慌てて真帆の肩を支える
「真帆さん?」
「まだ……」
「負けてない……」
「まだ……」
真帆はそのままぐったりと力を失い
達也は真帆の身体を支えたまま
その顔を覗き込む
「ああ、負けてねえよ」
「真帆さんは」
「かっこいいぜ!」
父親はぐったりした真帆をしばらく見る
もう起き上がらないことを確認すると
父親が拳を上げた
「勝った!」
「母さん!」
「明日にでも見合い相手へ連絡を――」
「待てよ」
達也が真帆をゆっくりと横たえる
「まだ終わってねえだろ」
「なんだ?」
「次、俺な」
父親の鋭い眼光が達也に向いた
「なんのつもりだ」
達也は横たわる真帆を一度見る
口元を少し上げて
父親へ向き直った
「俺は真帆さんの友達だ!」
「助太刀するぜ!」
横たわった真帆の指先が
ほんの少しだけ動いた
「これは真帆と俺の勝負だ!」
「1対1なんて、聞いてねえぞ!」
「女一人が相手じゃねえと勝てねえのか!」
「ビビってんのかよ!?」
「なんだと!?」
「いいだろう」
「達也が潰れるまでは待ってやる!」
「乾杯だ、親父さん!」
今度は達也の一杯目
ジョッキになみなみと日本酒をついで
一気に飲もうとする
しかし途中でむせてせき込んだ
「ゲホゲホゲホゲホ」
「日本酒ってこんな飲み方するものじゃねえだろ!?」
「もう終わりか?」
「うるせえ!」
「まだ余裕だぜ!」
達也は両目をつむってまた飲み始める
1杯目のジョッキが空になった
「へ……」
「どうだよ」
どさっ
「おれは……まだ……」
達也は酒がまわってもうろうとする
父親がジョッキを飲み干した
「弱い!」
「期待させやがって!」
「母さん、まずはあいつが良いんじゃないか?」
「レスリング全国の――」
その時
真帆から達也に受け継がれたジョッキに
日本酒がなみなみと注がれた
真帆の母親がそれを手に取る
そして
一気に飲み干して声をあげた
「ぷは~」
「なんのまねだ」
母親は先ほどの達也のセリフをまねた
「私は真帆の母親だ~」
「助太刀するぜ~!」
父親がくすりと笑った
「分かった、言ってみろ」
「もう少し」
「見てみたいんですよ」
母親は真帆と達也に目を向けた
「ひょっとしたら」
「ひょっとするんじゃありません?」
「そうみえるか?」
「全然見えません」
「お互いに何とも思ってませんね~」
「だろ?」
その時
小さな声が聞こえた
「まちなさいよ……」
父親と母親が振り返る
真帆がゆっくり身体を起こしていた
達也は畳に突っ伏したまま
定まらない目を真帆に向ける
「ま……ほさん……」
真帆は額を押さえながら
達也を見る
「達也さん」
「なにやってんの?」
「助太刀……」
「したんだけどよ……」
「一杯で潰れてんじゃないわよ」
「情けないわね」
「ジョッキで飲む方がおかしいんだよ……」
真帆は小さく笑う
それから母親を押しのけるようにしてジョッキを掴んだ
父親を睨みつける
「お父さん!」
「まだ終わってないから!」
「続きよ!」
父親の口元が上がる
「面白い!」
「来い!」
母親が嬉しそうに二人のジョッキに
日本酒を注いだ
真帆と父親が同時にジョッキを持ち上げる
真帆は残った力を振り絞るように
一気に飲み干した
父親も酒を口へ運ぶ
やがて
父親の巨体がぐらりとゆれる
「あなた?」
父親の巨体がゆっくり畳へ倒れた
真帆はしばらく父親を見る
それから
空になったジョッキをテーブルへ置いた
父親のジョッキを見る
まだ半分以上も残っていた
確かめるように
倒れた父親を見つめる
その口元が
少しずつ
少しずつ
吊り上がっていく
やがて両手をぎゅっと握りしめる
真帆の肩が小刻みに震える
そして
真帆は思いっきり両手を高く上げた
「しゃあああ!!!!」
「私の勝ちよ!!」
「ついに……」
「ついに!!」
「ばか親父にギャフンと言わせてやったわ!!!!」
母親がにこりと笑う
「真帆の勝ちね~」
「やった……」
真帆もその場へ倒れ込んだ
達也が定まらない目で真帆を見る
「やった……な」
「まほ……さん……」
「……ぐふ……」
母親は二人に声を掛けながら
少しずつ水を飲ませた
二人が寝息を立て始めると
母親は二人を横向きに寝かせて
薄手の毛布を掛けた
それから、母親は父親のそばへ行き
頭の上にしゃがみ込む
その顔を覗き込んだ
「お優しいことで~」
母親は父親のおでこを撫でた
「よくできました~」
「素敵ですよ~」
「惚れなおすわ~」
母親は楽しそうに笑った
やがて
家の中には
三人の寝息だけが残った
翌日の昼過ぎ
達也の車は東京へ向かって走っていた
助手席には真帆が座っている
「頭痛い……」
「俺も……すげえ気持ち悪い」
「真帆さんも親父さんも強過ぎだろ……」
「本当に人間なのか?」
真帆は額を押さえる
窓の外を眺めながら
父親の言葉を思い出す
『約束は約束だ』
『もう見合いは持ってこん』
『いい男くらい、自分で見つけろ』
「いい男ねえ……」
「どうやって見つければいいのよ」
達也は前を見たまま笑う
「真帆さんなら」
「普通に見つかるって」
「簡単に言うね」
真帆は少し黙った
「あ!」
何かを思いついたように
達也を見る
「それならさ、達也さん」
「誰かいい人、紹介してよ」
「私も、大学時代の友達紹介できるよ」
達也は笑った
「俺はいいよ」
「しばらく恋愛する気ねえし」
真帆が眉を寄せる
「じゃあ私には?」
達也は少し考える
「あの親父さんに会わせても」
「平気そうな奴が思いつかねえ」
真帆が肩を落とした
「だよねえ~……」
「結局、お父さんのせいで彼氏できないのよ」
達也は前を見たまま笑った
「それもあるけどよ」
「真帆さんがその気になったら」
「相手はすぐに捕まると思うぜ」
真帆は少しだけ窓の外を見る
「そうかな……」
「そうは思えないんだけど……」
「そうだよ」
「あの手料理食べさせりゃ、一発だぜ」
「マジで美味かった」
「食べられる奴が羨ましいくらいだな」
「え? そうなの?」
「だったら」
「週末に食べにくればいいじゃん」
「は?」
「だから、食べたいんでしょ?」
「いや」
「俺も一応男だぜ?」
「ちょっと警戒心なさすぎねえか?」
「心配になるぜ」
「なにを想像してんのよ」
「私、週末に親戚のおじさんの喫茶店を手伝ってるの」
「休日ランチは大抵私が作ってるから」
「食べに来れば~って話」
「最初からそう言えよ!」
「あ~これだから」
「リアルの男は嫌なのよ」
「そういうのは男同士でなんとかしなさい」
「どういう話だそれ!?」
車はそのまま
東京へ向かって走っていった
* * * 真帆の母より * * *
「真帆の母です~」
「うちの子がお世話になっております」
「私から皆さまにお伝えしたいことがありま~す」
「うちの家族は昔からみんな」
「と~ってもお酒に強い家系なんです」
「達也ちゃんも」
「普通の人にしては」
「お酒に強いほうなんですけどね~」
「お父さんとは気が合うから」
「会うと、つい」
「無茶しちゃうんですよね~」
「それでも」
「こんな飲み方はとっても危ないですからね~」
「絶対に一気飲みなんてしちゃダメ」
「真似しないでくださいね~」
「お酒は楽しく」
「自分のペースで飲みましょう~」
