不動産王子に求婚されたのでオタクにしてやりました

数秒後、今度はこちらへ近づいてくる

ピンポーン

呼び鈴が鳴り、美月の肩が跳ねた

続けて、扉が強く叩かれる

「……なんて、引き下がると思ったかよ」
「相沢美月!」
「いるのは分かってる、出てこいよ」

美月は毛布を頭からかぶった

なになに、なんでこっちにくるのよ!

「相沢美月!」
「居留守使ってんじゃねえぞ!」
「出てくるまで帰らねえからな!」
「早く出てこい!」

ひいいい、怖いんだけど……

なんでこんな目に遭うのよ

怜司の大きな声が響いてきた

「達也! 何の真似だ!」

「あ?」
「この女のためにやってんだろ?」
「バレてないとでも思ってたのかよ」
「本人からやめるように言ってもらうしかねえだろうが」
「おい! 相沢美月! 顔見せろ!」

「やめろと言っている!」
「俺が勝手にやってることだ、美月は関係ない」

「関係大ありだろうが」
「このせいで幾ら飛ぶと思ってんだよ」
「こんなもん役員会で説明できるわけねえだろうが」

また美月の部屋の扉が壊れそうなほど強く叩かれた

「それ以上やるなら、いくら達也でも許さんぞ!」

「上等だよ、女に腑抜けにされやがって」
「殴りかかってこいよ」
「根性を入れ直してやる」

美月は毛布を抱え込むようにかぶる

ちょっとーー

私の家の前でなに始める気なの

このままじゃ、怜司君とあの人が喧嘩になっちゃう……

そうだ、警察……

美月はスマートフォンへ手を伸ばした

けれど、通報しようとしたところで指が止まる

警察なんて呼んだら、もっと大ごとになっちゃう

それに、怜司君が止めようとしてくれているのに……

達也はまた美月の家の扉を叩こうと腕を振りかぶる

その腕を怜司が掴んで止めた

「やめてくれ、頼む」
「悪いのは俺だ、叩きたいなら俺を叩け」

美月は毛布をぎゅっと握った

その視線が、すがるように棚の上に置かれた写真へ向いた

写真の中では、母がいつものように笑っている

「ママ……」

もし今ここにママがいたら

きっと、こんなところに隠れたりしない

美月は意を決して毛布を払いのけ、立ち上がった

二つの鍵を外し、ゆっくりと扉を開ける

目の前には、怜司に腕をつかまれた達也が立っていた

短めの茶色の髪、鋭い瞳

鼻筋の通った整った顔立ち

少し赤みが入った紺色のスーツが、長身によく似合っている

高そうな腕時計

右耳には小さなダイヤのピアスが光っていた

うわぁ……

めちゃくちゃ顔はいいけど、ヤンチャそう……

絶対関わりたくないんですけど……

でも……ちゃんと言わなきゃ

一人で大丈夫ってママに約束したもん

私だって、ママみたいにできるわ!

美月は大きく息を吸い込んだ

そして声を張り上げた

「あんたたち!」
「うるさい!」
「近所迷惑を考えなさい!」

怜司と達也が固まって美月を見る

達也は美月の服装へ目を向ける

続いて、扉の向こうに見える部屋の中へ視線を移した

すると達也は、怜司に掴まれていた腕を乱暴に振りほどいた

すぐに姿勢を正し、きっちり45度に頭を下げた

「すみませんでした!」

予想外に素直に謝られて美月がたじろぐ

「わ、分かればいいのよ」
「怜司君も、私のために変なことするのやめてよ」
「それって普通じゃないでしょ」
「私は出ていくから」

達也が勢いよく顔を上げた

「怜司君?」

「ここは美月にとって大切な場所だろう」
「俺が守りたくて守っているんだ」
「君はここにいていいんだ」

達也は怜司を振り返った

「美月!?」

そして改めて美月を見ると、その顔を指差した

「それじゃ、このオタク女が美月なのかよ!?」

美月がむっとする

「悪かったわねオタクで」
「あんたには関係ないでしょ、早くどっか行ってよ」

達也が怜司に詰め寄った

「怜司! どこに好きになる要素があんだよ!?」

「美月を侮辱するなら許さん」
「俺は15年前から美月と家族になるためにやってきた」

「15年前って……」
「まさか、あの小説くれた女ってこいつなのか!?」

「そうだ」

達也が美月へ視線を移し、舌打ちをした

美月が扉に隠れた

こ……こわい……

はやく帰ってほしい……

今季は見たい作品が多いのに……

達也のため息が響いた

「わかった、そういうことなら仕方ねえな」
「えっと……美月さん」
「さっきは悪かった」
「飯代は出すから、少し話を聞いてくれねえか?」

え……?

普通に嫌なんですけど……

でも……断れる感じじゃないわね……

そこで美月は、あることを思いついた

あ……

人手があると助かるわね……

「いいけど、条件があるわ」