不動産王子に求婚されたのでオタクにしてやりました

「夕飯の材料を採りに行くぞ!」
「達也! ついてこい!」

父親はそう言って

畑へ向かって歩き出した

達也が自分を指差す

「俺も?」

「当たり前だ!」

「なんでだよ!?」

「今日は泊まっていけ」
「うちの飯は美味いぞ」
「ただし、働かざる者食うべからずだ!」
「口を動かす暇があったら手を動かせ!」

「親父さん」
「言ってること無茶苦茶じゃねえか?」

それでも達也は

父親と一緒に畑へ向かった

キャベツ
白菜
大根
長ねぎ
青菜

次々に野菜を収穫していく

「これ」
「全部、親父さんが作ってんの?」

「そうだ!」

達也は大根を引き抜いた

「すげえな」
「めっちゃ美味そうじゃん」

「達也、一ついいことを教えてやる」

「え? なんだよ?」

「食事は人の基本だ」
「料理上手な女を好きになれ」

「なんだよ突然」

やがて父親が鶏小屋へ向かった

「次はこっちだ」

「鶏小屋?」
「卵でも取るのか?」

「その辺に落ちてるから」
「達也が拾え」

父親と達也は鶏小屋の中へ入り

達也は卵を探す

「お、沢山あるじゃねえか」

次々と卵を拾っていく

「親父さん、6個もあったぜ!」

その時

父親は一羽の鶏を捕まえた

「夕飯だ」

達也は首を傾げる

「ん?」

父親は腕を大きく回す

達也には最初

何をしているのか分からなかった

やがて

さっきまで暴れていた鶏が

ぐったりとする

達也の顔が引きつった

「……おい」

父親が鶏を持ち上げる

「なんだ?」
「まさか、それ……」

「夕飯だと言っただろ」

「マジかよ……」

父親は平然としている

達也はぐったりした鶏を見る

「この家」
「いろいろすげえな……」

日が暮れる頃

二人は大量の野菜を抱えて家へ戻った

相撲に畑仕事

達也はすっかり泥まみれだった

「母さん!」
「達也は泊まるぞ!」
「風呂は沸いてるか!?」

「は~い」
「準備してありますよ~」

真帆が野菜を受け取りながらため息をついた

「どうせ今から帰っても夜中になっちゃうでしょ」
「達也さん、泊まって行ってよ」

「おう」
「俺に選択権ないみたいだしな」

達也は真帆に案内され

浴室へ向かった

「うお」
「なんか雰囲気がある風呂だな」

「五右衛門風呂よ」

「あ、それ俺知ってるぜ」
「板に乗って入るやつだろ?」

「いつの時代の話よ」
「ちゃんと中に足場があるから」
「そんな危ないもの入りたくないって」
「タオルと着替え持ってくるね~」

真帆は脱衣所から出て扉を閉める

達也は痛む身体で服を脱いで浴室に入る

頭と体を洗い終えた頃

真帆が着替えとタオルを持って

脱衣所へ戻ってきた

「達也さん」
「着替え置いとくからね」
「タオルも一緒に置いとくから」

浴室の向こうから声が返ってくる

「おう」
「ありがとう、真帆さん」

真帆が着替えを置く

ざぶん

湯船へ入る音がした

「いって!」

真帆の手が止まる

「大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫」
「背中がしみただけだ」

「何回も投げられてたからね」
「あとで湿布貼ってあげるよ」

「でも、最後は俺が勝ったからな!」
「親父さんに負けを認めさせたぜ!」

「ほんと凄いよ」
「お父さんが相撲で負けるとこ」
「初めて見たわ」

「だろ!」
「もっと褒めていいぜ!」

「はいはい」
「達也さんは、すごいね~」

真帆は少し笑う

子供みたい……

それから真帆は少し黙った

「あのさ」

「ん?」

浴室から水の音だけが聞こえる

「私のためにやってるようには見えなかったけど」
「こんな所まで来てくれて」
「お父さんと遊んでくれて」
「今日は、ありがとう」
「あとさ」
「大変な目に遭わせちゃって」
「ごめんね」

達也が小さく笑った

「真帆さんが謝ることじゃねえよ」
「俺が勝手にやったことだし」

真帆は少しだけ目を細める

それから腕を組んだ

「正直、私もそう思ってるわ」
「礼儀として言ったのよ」

少し間が空く

「それに」
「楽しかったぜ」

「え?」

「俺、自分の親父って知らねえんだよ」
「あんな親父だったら」
「俺も真帆さんと同じだったろうな」

「なにそれ……」
「私と同じってなに」

「だって」
「文句言ってぶつかったりしてるけどよ」
「真帆さん親父さんのこと大好きだろ?」
「見てりゃ分かるよ」

「どこをどう見たらそう思うのよ……」

達也が笑う

「説明できねえけどよ」
「なんか伝わってくるんだよな」
「お互いに想い合ってる感じがよ」

「達也さん」
「ちょっと投げられ過ぎたね」
「明日、念のため病院に行きましょう」

浴室の向こうから笑い声が聞こえる

真帆も少しだけ笑った

「俺さ」
「親父さんと今日一日過ごしてみて」
「めちゃくちゃな人だなって思ったけどよ」
「なんつーか」
「真っ直ぐなんだよな」
「ウジウジしてんのが」
「ダセえなって思っちまったよ」

「影響されないでよ」
「ばかが移っても知らないからね」
「じゃあ」
「ご飯すぐにできるから」

「おう」

真帆と母親はキッチンで慌ただしく食事の準備をしている

大きな食卓いっぱいに次々と

出来立ての料理が並べられていった

採ってきたばかりの野菜

鶏の唐揚げ

じゃがいもの煮物

青菜の和え物

大根のサラダ

味噌汁

炊きたてのご飯

風呂上がりの達也は

すでに父親と酒を飲んでいた

「飲め!」

「注ぎすぎだって!」

「男なら飲め!」
「飲まなきゃ男じゃない!」

「その理屈やめろよ!」
「いつの時代から来たんだよ!?」

「昭和に決まってる」

真帆と母親が最後の料理を運んでくる

「はいはい」
「喧嘩しないで食べなさい」

「おお! すげえ!」
「腹ペコだったんだよ」
「いただきます!」

達也が唐揚げを口へ入れる

目を見開く

「うまっ!」

さらに煮物へ箸を伸ばす

「これもすげえな」
「めちゃくちゃうまい」

父親が得意そうに笑う

「そうだろう!」

達也はまた別の皿を食べる

「これ、怜司のより」
「うまいんじゃねえか?」
「こんなもんが存在したのかよ!?」

「怜司さん?」

真帆が瞬きをする

母親が笑った

「それ」
「真帆が作ったのよ」

達也が真帆を見る

「マジ!?」
「真帆さんって料理上手だったんだな!」

「うん」
「家じゃ昔から手伝ってたから」

達也はもう一口食べる

「いや」
「マジでうまいわ」
「すげえな、真帆さん」

「そんな大げさな」

「大げさじゃねえって」

達也は何気なく笑った

「真帆さんと結婚する男」
「幸せ者だろうな」

真帆の箸が止まった

「は?」

達也は気にする様子もなく

料理を食べている

父親の目が

ゆっくりと達也へ向いた

その様子に気づいた真帆の

顔が露骨に曇る

父親は構わず

大きな手を

真帆の頭へ置いた

真帆が父親を横目で睨んだ

「触らないでよ」
「キモイんだけど」

「達也!」

「ん?」

「真帆の見た目をどう思う」

「見た目?」

達也が真帆を見る

「どうって」

少し考える

「綺麗だし」
「可愛いだろ」

真帆の目が鋭くなって達也を見た

「なに言いだしてんの?」
「お父さんに合わせなくていいから」

父親は続ける

「性格は?」

「いいだろ、普通に」
「面倒見いいし」
「ちゃんとしてるし」

真帆がイラっとして頭を触る父親の手を両手でどけようとする

「触んなって言ってるでしょ!」

だが父親の手はびくともしなかった

父親が大きく頷く

「料理も美味いだろ」

「美味いな」

「なら問題ないな」

達也の箸が止まる

「……何が?」

父親は真帆の頭から手をはなし今度は肩を叩く

「真帆をやる!」

「ん!?」
「なんの話してんだよ!?」

真帆が歯ぎしりをする

それから父親を睨む

「そうよ!」
「人を物みたいに言わないで!」

「達也は俺に勝った!」
「真帆を任せるに足る男だ!」

「煩いわね!」
「そういうんじゃないって言ったでしょ!」

「達也」
「お前は真帆がいらんのか?」
「なんの問題がある」
「それでも男か?」

男……

さっきから出てくるこの言葉に

真帆がイラっとする

「俺、親父さんの言ってることも分かるぜ」
「たしかに、俺には問題なんかねえよ」
「真帆さん相手に問題とか」
「俺は言えねえし」

「でもよ……」
「そうじゃねえんだよ」

達也は父親を見る

「親父さん」
「そういうのはやめてやれよ」
「真帆さんの好きにさせてやれ」
「好きでもない男の嫁なんか」
「なりたくねえに決まってるだろ」

父親は舌打ちした

「だらしない奴だ」
「惚れさせてやるとは思わんか?」

その時だった

どんっ!

大きな音が食卓に響く

真帆が机に両手をついて

立ち上がっていた

「いい加減にして……」

父親が瞬きをする

「真帆?」

真帆は父親を指差す

「お父さん!」

続いて達也を指差す

「達也さんも!」

「え!? 俺も!?」

「そうよ!」
「なんで私のことなのに」
「二人で勝手に決めつけてるのよ!」

真帆は二人を睨みつけた

「私の自由は」
「私が勝ち取るわ!」

真帆は台所へ向かう

父親と達也が顔を見合わせる

「なんだ?」
「真帆はどうした?」

「俺が聞きてえよ!」
「あんた、真帆さんの親父だろ?」

しばらくして

真帆が戻ってきた

手には大きな一升瓶

どんっ!

食卓の真ん中へ置いた

「お父さん」

「なんだ」

「勝負よ!」

父親の目が細くなる

「ほう」

母親が楽しそうに笑う

達也だけが嫌な予感を覚えた

「おい」
「何を始めんだよ」

真帆は一升瓶を指差す

「私が勝ったら」
「もう二度と」
「勝手にお見合いを持ってこないで」
「誰と付き合うかも」
「結婚するかも」
「全部」
「私が決める!」

父親は腕を組む

「俺が勝ったら?」

真帆は一升瓶をつかんだ

「お見合いでも何でも」
「お父さんの言う通りにしてやるわよ!」

父親の目が輝く

「この際、根性があれば」
「おまえが好きなもやしでもかまわん」
「本気で結婚相手を探すなら受けてやる」
「真帆が自分で言った言葉だ」
「忘れるなよ!」

「そっちこそ!」

達也が二人を見る

「なんでこの家」
「勝負で決めんだよ!?」
「そういうのってちゃんと話し合わないとだめじゃねえか?」

母親が笑う

「似た者親子だから」

「お袋さんも止めろよ!」

「ジョッキでいい?」

「ジョッキ!?」
「これ日本酒だろ!?」
「お袋さんも実はやばいな」