美月と怜司の婚約が決まってから
しばらく過ぎ
少し寒さを感じるようになった頃
美月と真帆、怜司と達也は
都内のレストランに集まっていた
テーブルには料理が並び
それぞれの前にはシャンパングラスが置かれている
「それじゃ」
真帆がグラスを持ち上げる
「美月、怜司さん」
「ご婚約おめでとうございま~す!」
美月が嬉しそうにグラスを上げた
「ありがとう!」
怜司も小さく頷く
「ありがとう」
達也もグラスを持ち上げた
「二人とも、おめでとう」
美月は少しだけ遠慮がちに笑った
「……ありがとう」
グラスを合わせたあとも
達也の顔をちらりと見る
達也はそれに気づいて困った表情を見せた
「美月さん」
「な、なに?」
「さっきからそれ」
「やめてくんねえ?」
「え?」
「俺にだけ」
「妙に気ぃ遣ってるだろ」
美月の目が泳ぐ
「そんなこと……」
「あるだろ」
達也はため息をついた
それから
いつものように笑う
「もう終わった話だろ」
「俺もちゃんと納得してる」
「そりゃ俺じゃなくて残念だけどよ」
「それと同じくらい」
「怜司と美月さんが結ばれたのも嬉しいんだぜ」
「だからさ」
「変に気まずそうにされると困るんだよ」
「達也さん……」
「前みたいに普通にしてくれよ」
「俺も普通に祝いたいんだ」
美月はしばらく達也を見る
そして
少しだけ笑った
「……分かった」
「おう」
美月は達也の顔を見る
「じゃあ達也さん」
「さっきから気になってたんだけど」
「ん?」
「今日のその背広……」
達也はグレーのYシャツにノーネクタイ
強めに赤みの入った黒いストライプの背広を着ていた
「胡散臭いね」
「古い映画に出てくる」
「借金取りみたい」
「え!?」
「かっこいいだろ!?」
「ってか、いきなり普通に戻りすぎじゃねえか!?」
真帆が吹き出した
「美月の言う通りよ!」
「私も思ってたもん」
「私服は可愛いくせに」
「なんで背広の趣味だけヤカラなのよ」
「真帆さんもそう思ってたのかよ!?」
「みんなそう思ってるわよ」
「店員さんも引いてたじゃん」
怜司が達也を見る
「達也」
「実は、俺も以前から」
「そう思っていた」
「怜司まで乗っかってくんな!」
「ってか思ってたなら言えよ!」
四人の笑い声が重なる
残っていたわずかなぎこちなさも
いつの間にか消えていた
料理が運ばれてくる
美月は何度も
左手の薬指を眺めていた
怜司から贈られた指輪が
店の照明を受けて光っている
真帆が呆れたように笑う
「美月」
「さっきから何回見てるのよ」
「だって」
「まだ慣れないんだもん」
達也が笑う
「仕事中も見てそうだな」
「そんなわけないでしょ」
「これは婚約指輪だもん」
「結婚指輪を作ったら」
「会社にもつけていくわ」
怜司が美月を見る
「すぐに用意しよう」
美月の眉がぴくりと動いた
「ちょっと待って、怜司」
「私が見てないと、保存用とか予備とか言って」
「同じの何個も買うでしょ?」
「結婚指輪はちゃんと結婚してからね」
「勝手に買うの禁止」
「しかし」
美月は怜司の口調を真似る
『しかし』
「じゃないの!」
「保存用も予備もなしだからね」
「複製も絶対にしないで」
「二人で買ったペアリングを」
「そのまま付けるの」
「怜司は見張ってないとすぐそういうことするでしょ」
真帆が笑いながら料理を口へ運ぶ
「でもさ~」
「いろいろあったけど」
「落ち着くところに落ち着いたって感じ」
美月は照れたように笑った
「うん」
「真帆にも心配かけちゃったね」
「ほんとよ」
「どれだけ振り回されたと思ってるの」
「ごめんなさい」
「まあ」
「幸せになってくれるなら許してあげるよ~」
「それならもう」
「心配いらないかも」
達也が真帆にいたずらっぽく笑顔を向けた
「ところでさ」
「真帆さんはそういうのねえの?」
「次は真帆さんの番じゃね?」
真帆の顔から笑みが消えて達也を睨む
「やめてよ」
「ハラスメントで訴えるわよ」
「な、なんだよ、急に」
「その話」
「タイムリーなのよね」
「聞きたくない」
美月が首を傾げる
「どうしたの?」
真帆は深いため息を吐いた
「美月が婚約したって」
「お父さんにもバレたのよ」
「真帆のお父さん?」
「それ以来」
「ドン引きするくらい詰めてくるのよ」
「真帆も結婚しろ」
「見合いしろ」
「いい男を見つけた」
「今度会えって」
「毎日のように電話してくるの」
達也が笑う
「それは……大変そうだな」
「美月ちゃんは婚約したのに」
「お前は何をしてるんだって」
美月が苦笑する
「私のせい?」
「美月は悪くないわよ」
「お父さんが暴走してるだけだから」
「勝手に送り付けてくる相手情報にうんざりよ」
「どんな人紹介してくるの?」
真帆は嫌そうな顔をした
「ゴリラ」
達也が瞬きをする
「は?」
「全員ゴリラよ」
「筋肉、でかい、強い」
「毎回それ」
美月が困ったように笑う
「あ~」
「真帆のお父さんらしいね」
「いい人なんだけどね~」
「笑いごとじゃないのよ」
「柔道やってるとか」
「ラグビーやってたとか」
「レスリングで全国行ったとか」
「とにかく強い男ばっかり」
「どっかから探してくるのよ」
達也が首を傾げた
「強さが基準ってことか?」
「どっかの民族みてえだな」
「お父さんより弱い男は」
「私を守れないから認めないんだって」
「昔っからそう言ってたんだけど」
「最近、本気で言ってたんだと私も驚いてるわ」
「なんか、個性強そうな親父さんだな」
「ほんっとにね」
真帆は携帯を見る
「最近はもう――」
その時だった
テーブルの上の携帯が震えた
画面を見た真帆が
少し表情を緩める
あ
お母さんだ
真帆は携帯を手に取った
「ちょっと電話に出てくるね」
真帆は席を立ち
テーブルから少し離れた
「もしもし、お――」
『真帆!』
突然
男の大声が携帯から響いた
「うわっ!」
真帆は慌てて携帯を耳から離す
『やっと出たな!』
「なんでこの番号で掛けてくるのよ!」
『お前が俺の電話に出ないからだ!』
「だからってずるいでしょ!」
『今度の日曜日は空けておけ!』
「嫌!」
『まだ相手にも会ってないだろう!』
「会いたくないの!」
『いい男だぞ!』
「知らない!」
『身長198cm、レスリング出身だ!』
「聞いてないから!」
真帆の声が大きくなる
「もうやめてよ!」
「私は嫌だって言ってるでしょ!」
『一度会えば分かる!』
「嫌なものは嫌なの!」
『真帆!』
「しつこいよ!」
電話の向こうから
男の怒鳴り声が漏れ続ける
達也の表情が変わった
会話の内容までは聞き取れない
ただ
男が大声で真帆を怒鳴り
真帆が何度も拒んでいることだけは分かった
「おい、怜司」
「なんだ」
「あれ、どう思う?」
「少なくとも、真帆さんは嫌がっている」
「だよな」
「なんかヤベえ奴じゃねえの?」
「その可能性があるな」
「もう切るから!」
『待て!』
「やめてって言ってるでしょ!」
怜司が立ち上がった
「おい、怜司」
「なにをする気だ?」
「俺が話をつける」
「真帆さんは恩人だ」
美月が怜司を見上げた
「え?」
「ちょっと、怜司」
そんな怜司の前に立ちふさがるように
達也も立ち上がった
「怜司は美月さんの隣にいろよ」
「矢面に立つのは、俺の役目だぜ」
美月が今度は達也を見上げた
「いや」
「達也さん」
「あれはね――」
「美月さんは心配しなくていいぜ!」
達也が真帆に歩み寄る
「真帆さん」
「え?」
「大丈夫か?」
「大丈夫」
「いつものことだから」
『今の男は誰だ!』
真帆の顔が引きつる
「関係ないでしょ!」
『男がいるのか!』
「そういうんじゃない!」
『そいつに代われ!』
「嫌よ!」
『代われ!』
「なんでよ!」
『いいから代われ!』
「もう!」
「やめてって言ってるでしょ!」
達也が手を伸ばした
「貸して」
「え?」
「ちょっと、達也さん」
真帆が止めるより先に
達也は真帆の携帯を取った
耳へ当てる
「おい! 代わったぜ」
『誰だ貴様!』
「誰でもいいだろ」
達也の声が低くなる
「さっきから真帆さんが嫌がってんじゃねえか」
「いい加減にしろよ」
『なんだその口の利き方は!』
「そっちこそなんだよ」
「嫌だって言ってる女に」
「いつまで怒鳴ってんだ」
「だせえよ、お前」
『お前に何が分かる!』
「嫌がってんのは見りゃ分かんだよ!」
『貴様!』
「なんだよ!」
『真帆とどういう関係だ!』
「は?」
『真帆に手を出してるのか!?』
「何言ってんだよ」
「お前には関係ないだろ」
「達也さん!」
真帆が達也から携帯を奪い返した
「なにやってんのよ!」
それから
携帯へ向かって声を上げる
「お父さん!」
達也の動きが止まった
「……は!?」
「ごめん!」
「あとで掛け直すから!」
『真帆!』
『今の男は――』
真帆は強引に通話を切った
しばらく沈黙が落ちる
達也が顔をひきつらせて真帆を見る
「今の……」
「真帆さんの……お父さん?」
「そうよ!」
達也はゆっくり椅子へ座った
「それを先に言えよ……」
「言う暇あった!?」
「俺はてっきり」
「変な男に付きまとわれてるのかと思ってよ」
「私のお父さんよ! 」
「見合いしろってしつこいって言ってたでしょ!?」
「いや、なんか怒鳴ってたし」
「俺はてっきり……」
美月が口元を押さえて笑いをこらえている
達也がそれに気づく
「美月さん」
「笑ってんだろ」
「笑ってない」
「絶対笑ってるだろ!」
「だって達也さん」
「真帆のお父さんに」
「すごい喧嘩売ってたから」
「知らなかったんだよ!」
真帆も額を押さえながら
席へ戻った
「もう最悪……」
その時、また携帯が震えた
今度は、父親本人の番号だった
四人が携帯を見る
「今度は……」
「自分の携帯なのね」
真帆は嫌そうに電話に出る
「なに?」
父親の低い声が聞こえた
『今の男』
「うん?」
『次の休み』
『連れてこい』
「は?」
『逃げるなよ』
ぷつっ
電話が切れた
真帆は携帯を耳に当てたまま固まる
真帆の父親の声は大きく
三人にも内容は聞こえていた
達也が目を逸らす
「俺の……せいだな」
真帆が達也をばっと見る
「それはそうよね!?」
「悪い……マジで」
達也は少し考える
「俺が勘違いして」
「勝手にやっちまったことだからな」
「ちゃんと謝りに行くよ」
「来なくていいから!」
「いや」
「電話であそこまで言っちまったし」
「筋通さねえと気持ち悪いんだよ」
「絶対後悔するからね!?」
「大丈夫だって」
しばらく過ぎ
少し寒さを感じるようになった頃
美月と真帆、怜司と達也は
都内のレストランに集まっていた
テーブルには料理が並び
それぞれの前にはシャンパングラスが置かれている
「それじゃ」
真帆がグラスを持ち上げる
「美月、怜司さん」
「ご婚約おめでとうございま~す!」
美月が嬉しそうにグラスを上げた
「ありがとう!」
怜司も小さく頷く
「ありがとう」
達也もグラスを持ち上げた
「二人とも、おめでとう」
美月は少しだけ遠慮がちに笑った
「……ありがとう」
グラスを合わせたあとも
達也の顔をちらりと見る
達也はそれに気づいて困った表情を見せた
「美月さん」
「な、なに?」
「さっきからそれ」
「やめてくんねえ?」
「え?」
「俺にだけ」
「妙に気ぃ遣ってるだろ」
美月の目が泳ぐ
「そんなこと……」
「あるだろ」
達也はため息をついた
それから
いつものように笑う
「もう終わった話だろ」
「俺もちゃんと納得してる」
「そりゃ俺じゃなくて残念だけどよ」
「それと同じくらい」
「怜司と美月さんが結ばれたのも嬉しいんだぜ」
「だからさ」
「変に気まずそうにされると困るんだよ」
「達也さん……」
「前みたいに普通にしてくれよ」
「俺も普通に祝いたいんだ」
美月はしばらく達也を見る
そして
少しだけ笑った
「……分かった」
「おう」
美月は達也の顔を見る
「じゃあ達也さん」
「さっきから気になってたんだけど」
「ん?」
「今日のその背広……」
達也はグレーのYシャツにノーネクタイ
強めに赤みの入った黒いストライプの背広を着ていた
「胡散臭いね」
「古い映画に出てくる」
「借金取りみたい」
「え!?」
「かっこいいだろ!?」
「ってか、いきなり普通に戻りすぎじゃねえか!?」
真帆が吹き出した
「美月の言う通りよ!」
「私も思ってたもん」
「私服は可愛いくせに」
「なんで背広の趣味だけヤカラなのよ」
「真帆さんもそう思ってたのかよ!?」
「みんなそう思ってるわよ」
「店員さんも引いてたじゃん」
怜司が達也を見る
「達也」
「実は、俺も以前から」
「そう思っていた」
「怜司まで乗っかってくんな!」
「ってか思ってたなら言えよ!」
四人の笑い声が重なる
残っていたわずかなぎこちなさも
いつの間にか消えていた
料理が運ばれてくる
美月は何度も
左手の薬指を眺めていた
怜司から贈られた指輪が
店の照明を受けて光っている
真帆が呆れたように笑う
「美月」
「さっきから何回見てるのよ」
「だって」
「まだ慣れないんだもん」
達也が笑う
「仕事中も見てそうだな」
「そんなわけないでしょ」
「これは婚約指輪だもん」
「結婚指輪を作ったら」
「会社にもつけていくわ」
怜司が美月を見る
「すぐに用意しよう」
美月の眉がぴくりと動いた
「ちょっと待って、怜司」
「私が見てないと、保存用とか予備とか言って」
「同じの何個も買うでしょ?」
「結婚指輪はちゃんと結婚してからね」
「勝手に買うの禁止」
「しかし」
美月は怜司の口調を真似る
『しかし』
「じゃないの!」
「保存用も予備もなしだからね」
「複製も絶対にしないで」
「二人で買ったペアリングを」
「そのまま付けるの」
「怜司は見張ってないとすぐそういうことするでしょ」
真帆が笑いながら料理を口へ運ぶ
「でもさ~」
「いろいろあったけど」
「落ち着くところに落ち着いたって感じ」
美月は照れたように笑った
「うん」
「真帆にも心配かけちゃったね」
「ほんとよ」
「どれだけ振り回されたと思ってるの」
「ごめんなさい」
「まあ」
「幸せになってくれるなら許してあげるよ~」
「それならもう」
「心配いらないかも」
達也が真帆にいたずらっぽく笑顔を向けた
「ところでさ」
「真帆さんはそういうのねえの?」
「次は真帆さんの番じゃね?」
真帆の顔から笑みが消えて達也を睨む
「やめてよ」
「ハラスメントで訴えるわよ」
「な、なんだよ、急に」
「その話」
「タイムリーなのよね」
「聞きたくない」
美月が首を傾げる
「どうしたの?」
真帆は深いため息を吐いた
「美月が婚約したって」
「お父さんにもバレたのよ」
「真帆のお父さん?」
「それ以来」
「ドン引きするくらい詰めてくるのよ」
「真帆も結婚しろ」
「見合いしろ」
「いい男を見つけた」
「今度会えって」
「毎日のように電話してくるの」
達也が笑う
「それは……大変そうだな」
「美月ちゃんは婚約したのに」
「お前は何をしてるんだって」
美月が苦笑する
「私のせい?」
「美月は悪くないわよ」
「お父さんが暴走してるだけだから」
「勝手に送り付けてくる相手情報にうんざりよ」
「どんな人紹介してくるの?」
真帆は嫌そうな顔をした
「ゴリラ」
達也が瞬きをする
「は?」
「全員ゴリラよ」
「筋肉、でかい、強い」
「毎回それ」
美月が困ったように笑う
「あ~」
「真帆のお父さんらしいね」
「いい人なんだけどね~」
「笑いごとじゃないのよ」
「柔道やってるとか」
「ラグビーやってたとか」
「レスリングで全国行ったとか」
「とにかく強い男ばっかり」
「どっかから探してくるのよ」
達也が首を傾げた
「強さが基準ってことか?」
「どっかの民族みてえだな」
「お父さんより弱い男は」
「私を守れないから認めないんだって」
「昔っからそう言ってたんだけど」
「最近、本気で言ってたんだと私も驚いてるわ」
「なんか、個性強そうな親父さんだな」
「ほんっとにね」
真帆は携帯を見る
「最近はもう――」
その時だった
テーブルの上の携帯が震えた
画面を見た真帆が
少し表情を緩める
あ
お母さんだ
真帆は携帯を手に取った
「ちょっと電話に出てくるね」
真帆は席を立ち
テーブルから少し離れた
「もしもし、お――」
『真帆!』
突然
男の大声が携帯から響いた
「うわっ!」
真帆は慌てて携帯を耳から離す
『やっと出たな!』
「なんでこの番号で掛けてくるのよ!」
『お前が俺の電話に出ないからだ!』
「だからってずるいでしょ!」
『今度の日曜日は空けておけ!』
「嫌!」
『まだ相手にも会ってないだろう!』
「会いたくないの!」
『いい男だぞ!』
「知らない!」
『身長198cm、レスリング出身だ!』
「聞いてないから!」
真帆の声が大きくなる
「もうやめてよ!」
「私は嫌だって言ってるでしょ!」
『一度会えば分かる!』
「嫌なものは嫌なの!」
『真帆!』
「しつこいよ!」
電話の向こうから
男の怒鳴り声が漏れ続ける
達也の表情が変わった
会話の内容までは聞き取れない
ただ
男が大声で真帆を怒鳴り
真帆が何度も拒んでいることだけは分かった
「おい、怜司」
「なんだ」
「あれ、どう思う?」
「少なくとも、真帆さんは嫌がっている」
「だよな」
「なんかヤベえ奴じゃねえの?」
「その可能性があるな」
「もう切るから!」
『待て!』
「やめてって言ってるでしょ!」
怜司が立ち上がった
「おい、怜司」
「なにをする気だ?」
「俺が話をつける」
「真帆さんは恩人だ」
美月が怜司を見上げた
「え?」
「ちょっと、怜司」
そんな怜司の前に立ちふさがるように
達也も立ち上がった
「怜司は美月さんの隣にいろよ」
「矢面に立つのは、俺の役目だぜ」
美月が今度は達也を見上げた
「いや」
「達也さん」
「あれはね――」
「美月さんは心配しなくていいぜ!」
達也が真帆に歩み寄る
「真帆さん」
「え?」
「大丈夫か?」
「大丈夫」
「いつものことだから」
『今の男は誰だ!』
真帆の顔が引きつる
「関係ないでしょ!」
『男がいるのか!』
「そういうんじゃない!」
『そいつに代われ!』
「嫌よ!」
『代われ!』
「なんでよ!」
『いいから代われ!』
「もう!」
「やめてって言ってるでしょ!」
達也が手を伸ばした
「貸して」
「え?」
「ちょっと、達也さん」
真帆が止めるより先に
達也は真帆の携帯を取った
耳へ当てる
「おい! 代わったぜ」
『誰だ貴様!』
「誰でもいいだろ」
達也の声が低くなる
「さっきから真帆さんが嫌がってんじゃねえか」
「いい加減にしろよ」
『なんだその口の利き方は!』
「そっちこそなんだよ」
「嫌だって言ってる女に」
「いつまで怒鳴ってんだ」
「だせえよ、お前」
『お前に何が分かる!』
「嫌がってんのは見りゃ分かんだよ!」
『貴様!』
「なんだよ!」
『真帆とどういう関係だ!』
「は?」
『真帆に手を出してるのか!?』
「何言ってんだよ」
「お前には関係ないだろ」
「達也さん!」
真帆が達也から携帯を奪い返した
「なにやってんのよ!」
それから
携帯へ向かって声を上げる
「お父さん!」
達也の動きが止まった
「……は!?」
「ごめん!」
「あとで掛け直すから!」
『真帆!』
『今の男は――』
真帆は強引に通話を切った
しばらく沈黙が落ちる
達也が顔をひきつらせて真帆を見る
「今の……」
「真帆さんの……お父さん?」
「そうよ!」
達也はゆっくり椅子へ座った
「それを先に言えよ……」
「言う暇あった!?」
「俺はてっきり」
「変な男に付きまとわれてるのかと思ってよ」
「私のお父さんよ! 」
「見合いしろってしつこいって言ってたでしょ!?」
「いや、なんか怒鳴ってたし」
「俺はてっきり……」
美月が口元を押さえて笑いをこらえている
達也がそれに気づく
「美月さん」
「笑ってんだろ」
「笑ってない」
「絶対笑ってるだろ!」
「だって達也さん」
「真帆のお父さんに」
「すごい喧嘩売ってたから」
「知らなかったんだよ!」
真帆も額を押さえながら
席へ戻った
「もう最悪……」
その時、また携帯が震えた
今度は、父親本人の番号だった
四人が携帯を見る
「今度は……」
「自分の携帯なのね」
真帆は嫌そうに電話に出る
「なに?」
父親の低い声が聞こえた
『今の男』
「うん?」
『次の休み』
『連れてこい』
「は?」
『逃げるなよ』
ぷつっ
電話が切れた
真帆は携帯を耳に当てたまま固まる
真帆の父親の声は大きく
三人にも内容は聞こえていた
達也が目を逸らす
「俺の……せいだな」
真帆が達也をばっと見る
「それはそうよね!?」
「悪い……マジで」
達也は少し考える
「俺が勘違いして」
「勝手にやっちまったことだからな」
「ちゃんと謝りに行くよ」
「来なくていいから!」
「いや」
「電話であそこまで言っちまったし」
「筋通さねえと気持ち悪いんだよ」
「絶対後悔するからね!?」
「大丈夫だって」
