美月は何も言えなかった
嬉しい……
本当に嬉しい
こんなにも
私との未来を求めてくれたことが
どうしようもないほど
嬉しい
それなのに
どうしようもなく
胸が苦しい
達也さんと一緒にいると楽しい
安心する
何でも話せる
何度も何度も助けてくれた
辛い時ほど
傍にいてくれた
私の気持ちをいつも考えてくれた
もし
達也さんを選ぶことができたら
きっと幸せになれる
私だって
きっと……
達也さんのことも幸せにできる
そう……信じられた
信じさせてくれた
だからこそ
ごまかしてはいけない
美月は胸の前で両手を強く握った
「達也さん」
「おう!」
「私ね」
美月は達也の顔を見る
「達也さんといるの……」
「大好き」
達也は美月にいつもの笑顔を向ける
「いつも笑わせてくれて」
「私が困ってると助けてくれて」
「私の好きなものも分かってくれて」
「私がどうしたいのか」
「いつも考えてくれてた」
美月の目に涙が浮かぶ
「私も」
「もっと達也さんに話を聞いてもらいたい」
「達也さんの話も」
「もっと聞きたい」
「達也さんと一緒なら」
「この先もずっと楽しいんだろうなって」
「私は」
「信じられるよ」
達也は静かに美月を見つめている
美月は涙をこらえながら小さく笑った
「おじいちゃんとおばあちゃんになっても」
「くだらないことで笑ってるんだろうなって」
「私も……」
「私も、そう思ってるよ」
「達也さんと一緒にいられたらいいなって」
「ほんとのほんとに……」
「そう思ってる」
達也は小さく頷いて
一瞬目を伏せた
しかしすぐに美月に目を向けて
優しく微笑みを浮かべた
「私……」
美月の声が震えた
「私は……」
言わなきゃ……
私が……
ちゃんと言わなきゃ……
怖いよ……
怖い……
達也さんとの関係が壊れるのが……
それでも……
ちゃんと……
全部……
隠さずに……
伝えないといけないから……
「私は!」
「達也さんのことも」
「好きになってた!」
「本当は」
「何度も達也さんに甘えちゃおうと思った!」
「抱きしめてほしいと思った!」
「抱きしめてくれたらいいのにって……」
「そしたら……」
「そしたら!」
「達也さんのせいにして」
「達也さんに甘えられるのにって!」
風が二人の間を通り抜ける
美月の頬を涙が流れた
「だからこそ……」
「ちゃんと言わなきゃいけないと思って」
美月は唇を噛んだ
涙で滲む瞳を
達也へ向ける
その優しい笑顔を
胸に刻むように
美月は目を逸らさず
真っ直ぐに見つめた
「達也さん」
「私のこと」
「好きになってくれて」
「本当に……」
「ありがとう」
「でも!」
「でもね……」
「私……」
美月は達也に向けて深く頭を下げた
「怜司君じゃなきゃ駄目なの!」
「ごめんなさい!」
達也は優しい微笑みを美月に向けたまま
何も言わなかった
美月は頭を下げたまま
動けない
どれくらいそうしていただろう
やがて
小さな声が聞こえた
「そっか……」
「美月さん、顔を見せてくれよ」
美月がゆっくり顔を上げる
達也は空を見ていた
いつもの明るい笑顔ではなかった
けれど
その口元には
まだ優しい笑みが残っていた
「まあ……そうだよな」
「達也さん……」
達也はようやく
空から視線を下ろした
二人の目が合う
「そんな顔すんなって」
「でも……」
「いいんだよ」
達也は頭を掻く
「俺……」
「分かってたから」
美月の目から
涙がこぼれた
達也は美月に向けて笑った
「いや」
「分かってたつもりだった」
「俺、美月さんのこと大好きだからよ」
「誰より見てきたつもりだし」
「こうなるんじゃないかって……思ってたよ」
達也は小さく息を吐く
「俺は……」
「振られるって分かってたんだよ」
美月は涙を拭うこともできず
達也を見つめた
「だったら……」
「どうしてプロポーズしてくれたの?」
達也の笑みが少しだけ弱くなった
「決まってんだろ」
達也は笑みを消した
美月の目を真っ直ぐ見つめる
「俺だって」
「本気だったんだよ」
美月は息を呑む
「何もしないで諦められるほど」
「俺も出来た人間じゃねえよ」
「ちゃんと……」
「美月さんに伝えて」
達也は小さく笑う
「美月さんに……」
「言ってほしかった」
達也は美月から目を逸らし
言葉を飲み込むように
唇を結んだ
「それだけ……」
「ごめんな」
「達也さん……」
「だから泣くなって」
「俺……」
「美月さんに泣かれるのが一番嫌なんだよ」
そう言われて美月は慌てて両手で涙を拭った
だが涙は止まらず次々と溢れてくる
「無理よ」
「こんなの泣くに決まってるじゃない」
達也は小さく目を伏せた
それから苦笑する
「まいったな……」
「俺、初めて」
「美月さんの泣き顔をもっと見たいと思ってる」
「もっと泣いてくれよ……」
「美月さん」
美月が涙を流したまま達也を見つめる
「そういうこと言う?」
達也も美月を見つめていつもの笑顔で笑った
「ちょっとだけ」
「いつもの顔に戻ってきたな」
「やっぱ、俺はそっちの方がいいや!」
「なによ、それ」
「その方がいいんだよ」
達也はしばらく美月を見つめる
そして
桜の幹へ目を向けた
「……さて」
達也が顎で桜を示す
「美月さん」
「この桜の木の裏側で待ってるぜ」
「桜の木の裏?」
美月は大きな桜を見る
幹は太く
こちら側から反対側を見ることはできない
達也は肩をすくめた
「俺の……」
「次が待ってる」
美月の胸が跳ねた
「え……」
達也はもう一度
桜を見る
「俺と怜司」
「恨みっこなしの勝負だって言ったろ」
「怜司君……」
達也は笑う
「行けよ」
「王子さまは、あっちだぜ」
美月は達也を見る
達也は胸を張って
空を見上げた
それから美月に向き直り
いつものように笑った
美月はもう一度
達也へ深々と頭を下げる
「達也さん……」
「ありがとう」
「おう!」
美月は
桜の幹の向こう側へ
向かおうとした
足がうまく動かない
それでも数歩進み
美月は振り返った
達也は背中を向けて歩いていた
「達也さん!」
達也は片手を上げて応える
美月はその背中を見つめた
そしてもう一度
深く達也に頭を下げた
達也さん……
ありがとう
私ももう
自分をごまかさない
達也さんを裏切るようなことは
絶対にしない
私は
一人になることを
怖がっちゃ駄目なんだ
美月はしばらく
遠ざかる達也の背中を見つめた
達也さんは
私が怜司君に押し倒されたことを
知らない
私が話さなかったから
もし知っていたら
達也さんなら
もっと……
それから
美月も達也に背を向けた
私……ちゃんと聞くよ
怜司君の答えを聞いて
私が決める
達也さんが納得できないような返事なら
私は……
美月はゆっくりと前へ進んだ
達也は一人
校庭を歩いていた
美月に呼ばれても
振り返らなかった
やがて
校庭の端まで来たところで足を止めた
「……はあ」
大きく息を吐く
背広の右ポケットへ手を入れる
小さな黒い箱を取り出した
達也はそれを見つめる
「分かってた」
「か……」
自分で言った言葉に
小さく笑った
「一度好きになったら」
「そうそう変えてくれないよな」
「美月さんって頑固だから」
箱を開く
中には指輪が入っていた
達也は指輪をつまみ上げる
夕暮れの光を受けて
小さく輝いた
しばらくの間……
何も言わずに指輪を見つめる
「……高かったんだけどな」
達也は指輪を握る
腕を大きく振りかぶった
そして
「くそっ!」
思いきり投げた
指輪が夕暮れの空を飛んでいく
一瞬だけ光を反射し
遠くの草むらへ消えた
達也は空を見上げる
「……あーあ」
小さく呟いて
空になった箱をポケットへ戻した
そして……
一人で校庭をあとにした
嬉しい……
本当に嬉しい
こんなにも
私との未来を求めてくれたことが
どうしようもないほど
嬉しい
それなのに
どうしようもなく
胸が苦しい
達也さんと一緒にいると楽しい
安心する
何でも話せる
何度も何度も助けてくれた
辛い時ほど
傍にいてくれた
私の気持ちをいつも考えてくれた
もし
達也さんを選ぶことができたら
きっと幸せになれる
私だって
きっと……
達也さんのことも幸せにできる
そう……信じられた
信じさせてくれた
だからこそ
ごまかしてはいけない
美月は胸の前で両手を強く握った
「達也さん」
「おう!」
「私ね」
美月は達也の顔を見る
「達也さんといるの……」
「大好き」
達也は美月にいつもの笑顔を向ける
「いつも笑わせてくれて」
「私が困ってると助けてくれて」
「私の好きなものも分かってくれて」
「私がどうしたいのか」
「いつも考えてくれてた」
美月の目に涙が浮かぶ
「私も」
「もっと達也さんに話を聞いてもらいたい」
「達也さんの話も」
「もっと聞きたい」
「達也さんと一緒なら」
「この先もずっと楽しいんだろうなって」
「私は」
「信じられるよ」
達也は静かに美月を見つめている
美月は涙をこらえながら小さく笑った
「おじいちゃんとおばあちゃんになっても」
「くだらないことで笑ってるんだろうなって」
「私も……」
「私も、そう思ってるよ」
「達也さんと一緒にいられたらいいなって」
「ほんとのほんとに……」
「そう思ってる」
達也は小さく頷いて
一瞬目を伏せた
しかしすぐに美月に目を向けて
優しく微笑みを浮かべた
「私……」
美月の声が震えた
「私は……」
言わなきゃ……
私が……
ちゃんと言わなきゃ……
怖いよ……
怖い……
達也さんとの関係が壊れるのが……
それでも……
ちゃんと……
全部……
隠さずに……
伝えないといけないから……
「私は!」
「達也さんのことも」
「好きになってた!」
「本当は」
「何度も達也さんに甘えちゃおうと思った!」
「抱きしめてほしいと思った!」
「抱きしめてくれたらいいのにって……」
「そしたら……」
「そしたら!」
「達也さんのせいにして」
「達也さんに甘えられるのにって!」
風が二人の間を通り抜ける
美月の頬を涙が流れた
「だからこそ……」
「ちゃんと言わなきゃいけないと思って」
美月は唇を噛んだ
涙で滲む瞳を
達也へ向ける
その優しい笑顔を
胸に刻むように
美月は目を逸らさず
真っ直ぐに見つめた
「達也さん」
「私のこと」
「好きになってくれて」
「本当に……」
「ありがとう」
「でも!」
「でもね……」
「私……」
美月は達也に向けて深く頭を下げた
「怜司君じゃなきゃ駄目なの!」
「ごめんなさい!」
達也は優しい微笑みを美月に向けたまま
何も言わなかった
美月は頭を下げたまま
動けない
どれくらいそうしていただろう
やがて
小さな声が聞こえた
「そっか……」
「美月さん、顔を見せてくれよ」
美月がゆっくり顔を上げる
達也は空を見ていた
いつもの明るい笑顔ではなかった
けれど
その口元には
まだ優しい笑みが残っていた
「まあ……そうだよな」
「達也さん……」
達也はようやく
空から視線を下ろした
二人の目が合う
「そんな顔すんなって」
「でも……」
「いいんだよ」
達也は頭を掻く
「俺……」
「分かってたから」
美月の目から
涙がこぼれた
達也は美月に向けて笑った
「いや」
「分かってたつもりだった」
「俺、美月さんのこと大好きだからよ」
「誰より見てきたつもりだし」
「こうなるんじゃないかって……思ってたよ」
達也は小さく息を吐く
「俺は……」
「振られるって分かってたんだよ」
美月は涙を拭うこともできず
達也を見つめた
「だったら……」
「どうしてプロポーズしてくれたの?」
達也の笑みが少しだけ弱くなった
「決まってんだろ」
達也は笑みを消した
美月の目を真っ直ぐ見つめる
「俺だって」
「本気だったんだよ」
美月は息を呑む
「何もしないで諦められるほど」
「俺も出来た人間じゃねえよ」
「ちゃんと……」
「美月さんに伝えて」
達也は小さく笑う
「美月さんに……」
「言ってほしかった」
達也は美月から目を逸らし
言葉を飲み込むように
唇を結んだ
「それだけ……」
「ごめんな」
「達也さん……」
「だから泣くなって」
「俺……」
「美月さんに泣かれるのが一番嫌なんだよ」
そう言われて美月は慌てて両手で涙を拭った
だが涙は止まらず次々と溢れてくる
「無理よ」
「こんなの泣くに決まってるじゃない」
達也は小さく目を伏せた
それから苦笑する
「まいったな……」
「俺、初めて」
「美月さんの泣き顔をもっと見たいと思ってる」
「もっと泣いてくれよ……」
「美月さん」
美月が涙を流したまま達也を見つめる
「そういうこと言う?」
達也も美月を見つめていつもの笑顔で笑った
「ちょっとだけ」
「いつもの顔に戻ってきたな」
「やっぱ、俺はそっちの方がいいや!」
「なによ、それ」
「その方がいいんだよ」
達也はしばらく美月を見つめる
そして
桜の幹へ目を向けた
「……さて」
達也が顎で桜を示す
「美月さん」
「この桜の木の裏側で待ってるぜ」
「桜の木の裏?」
美月は大きな桜を見る
幹は太く
こちら側から反対側を見ることはできない
達也は肩をすくめた
「俺の……」
「次が待ってる」
美月の胸が跳ねた
「え……」
達也はもう一度
桜を見る
「俺と怜司」
「恨みっこなしの勝負だって言ったろ」
「怜司君……」
達也は笑う
「行けよ」
「王子さまは、あっちだぜ」
美月は達也を見る
達也は胸を張って
空を見上げた
それから美月に向き直り
いつものように笑った
美月はもう一度
達也へ深々と頭を下げる
「達也さん……」
「ありがとう」
「おう!」
美月は
桜の幹の向こう側へ
向かおうとした
足がうまく動かない
それでも数歩進み
美月は振り返った
達也は背中を向けて歩いていた
「達也さん!」
達也は片手を上げて応える
美月はその背中を見つめた
そしてもう一度
深く達也に頭を下げた
達也さん……
ありがとう
私ももう
自分をごまかさない
達也さんを裏切るようなことは
絶対にしない
私は
一人になることを
怖がっちゃ駄目なんだ
美月はしばらく
遠ざかる達也の背中を見つめた
達也さんは
私が怜司君に押し倒されたことを
知らない
私が話さなかったから
もし知っていたら
達也さんなら
もっと……
それから
美月も達也に背を向けた
私……ちゃんと聞くよ
怜司君の答えを聞いて
私が決める
達也さんが納得できないような返事なら
私は……
美月はゆっくりと前へ進んだ
達也は一人
校庭を歩いていた
美月に呼ばれても
振り返らなかった
やがて
校庭の端まで来たところで足を止めた
「……はあ」
大きく息を吐く
背広の右ポケットへ手を入れる
小さな黒い箱を取り出した
達也はそれを見つめる
「分かってた」
「か……」
自分で言った言葉に
小さく笑った
「一度好きになったら」
「そうそう変えてくれないよな」
「美月さんって頑固だから」
箱を開く
中には指輪が入っていた
達也は指輪をつまみ上げる
夕暮れの光を受けて
小さく輝いた
しばらくの間……
何も言わずに指輪を見つめる
「……高かったんだけどな」
達也は指輪を握る
腕を大きく振りかぶった
そして
「くそっ!」
思いきり投げた
指輪が夕暮れの空を飛んでいく
一瞬だけ光を反射し
遠くの草むらへ消えた
達也は空を見上げる
「……あーあ」
小さく呟いて
空になった箱をポケットへ戻した
そして……
一人で校庭をあとにした
