その頃
キャンプスペースでは
真帆と怜司が食材の下ごしらえをしていた
「よ~し」
「普通に焼く分はこれくらいかな」
「怜司さん、手際いいね~」
「趣味だからな」
「え~、またまた~」
「見たら分かるよ~」
「趣味のレベルじゃないじゃん」
「真帆さんはどこかで料理を勉強したのか?」
「実家で習っただけだよ~」
「あとは、叔父さんの喫茶店を手伝ってるくらいだね」
「見れば分かる」
「真帆さんは俺より上だ」
「そんなたいしたものじゃないって」
「じゃあ次は」
「下味をつけたものも用意しようよ」
「というと?」
真帆はボウルに肉を入れると
ローズマリーの葉を茎から外し
タイムの葉をしごき取る
それを包丁で細かく刻み始めた
「真帆さん」
「これはローズマリーか?」
「うん」
「ローズマリーとタイム」
「あと、潰したにんにくも入れて」
「オリーブオイルと一緒に揉み込むの」
怜司が少し驚いたように真帆を見る
「香草はよく使うのか?」
「使うよ~」
「煮込みならブーケガルニも作るし」
「鶏の出汁を取る時も」
「香味野菜を一度焼いてから入れたりするよ~」
怜司は少し考え込む
「なるほど……」
「俺はやったことがない」
怜司は真帆の手元を見る
「俺にも手伝わせてくれ」
「もっと教えてもらってもいいか?」
「いいよ~」
「怜司さんなら覚えるの早そうだし」
「真帆さん」
「ん?」
「師匠と呼ばせてくれ」
「いや……」
「それはやめてよ」
「連絡先を交換できないか?」
「俺も真帆さんと友達になりたい」
真帆が少しだけ呆れた顔で怜司を見る
「美月とのグループLINEならいいけど」
「分かった」
「美月に頼んでみる」
真帆が驚いて心配そうに怜司を見た
「余計なお世話だけどさ」
「それ美月に言うのはやめときな」
「なぜだ?」
「絶対変な誤解されるよ」
「怜司さん、ちゃんと説明できなそうだし」
「自ら退場しなくてもよくない?」
「どういう意味だ?」
真帆は答えようとして
ふと口を止めた
あれ……?
私、なんでこんなこと言ってんの?
「……さあね~」
真帆は手元へ視線を戻す
「じゃあ次は――」
しばらくして
美月と達也がキャンプスペースへ戻ると
真帆と怜司は食材の下ごしらえを終えていた
「ただいま~!」
「いっぱい拾ってきたよ!」
美月が得意げに薪の入った袋を持ち上げる
真帆はまず美月の顔を見た
それから
その後ろにいる達也へ目をやる
達也は何も言わず
薪の袋を地面へ置いた
そのまま袋の口を開き
中の薪を取り出し
焚き火台のそばへ積み始める
真帆はそんな達也をじっと見る
あ……
これ、告ってないわ……
真帆の視線が美月へ戻る
「美月……」
「な、なによ」
「別にいいでしょ!?」
「私、なにも言ってないよね」
「真帆は顔が煩いのよ」
「そりゃ煩くもなろうってもんじゃないの?」
「本当の本当に」
「大丈夫なんでしょうね」
美月は困ったように俯く
「大丈夫……」
真帆が美月の顔を覗き込んだ
「声、小さくない?」
達也が二人の会話を遮るように
大きく咳払いをする
「ほら、美月さん」
「火起こすんだろ?」
「う、うん! やる!」
美月は逃げるように達也に駆け寄った
達也はテントの前に置いた焚き火台へ
細い枝から順番に薪を組んでいく
「太いやつは燃えにくいからな」
「まず細いやつからだ」
「なるほど~」
美月は達也の真似をしながら薪を並べる
「これでいい?」
「おう」
「結構うまいじゃねえか」
「予習の成果ね!」
「アニメで見たわ!」
「薪の選び方は全滅だったけどな」
「それはもう忘れてよ」
やがて小さな炎が薪へ移り
ぱちぱちと音を立てながら大きくなっていく
「ついた!」
美月が嬉しそうに炎を覗き込む
「すごい!」
「なんか焚き火ってずっと見てられるね」
「だろ?」
「これがいいんだよ」
達也が満足そうに火を眺める
その時、風向きが変わった
白い煙が美月の方へまともに流れてくる
「うわっ!」
「煙!」
美月は慌てて目を閉じる
「しみる~!」
「目が~! 目が~~!」
両手で顔を押さえながら
美月が大げさによろめく
達也が眉を寄せる
「大丈夫か!? 美月さん!」
真帆が吹き出した
「達也さん、違う違う」
「それムスカだから」
「ムスカ?」
美月が目をしぱしぱさせながら達也を見る
「有名でしょ」
「そこは分かってよ」
「知らねえよ!」
「え! 見たことないの!?」
「どこの世界の人よ」
怜司が口を開く
「知っている」
「ラピュタは強く印象に残っている」
「トトロも千と千尋も……紅の豚もいいが」
「俺はナウシカが好きだ」
「初めて見た時、涙が止まらなかった」
「え……?」
美月が驚いた表情で怜司を見つめる
「泣いた?」
「怜司君って泣くの?」
「人間だから」
「泣くこともある」
「ひょっとして怜司君って」
「ジブリでナウシカが一番好き?」
「あえて言うならそうだが……」
「思い出のマーニーも好きだ、おもひでぽろぽろも……」
「ただ、火垂るの墓は胸に迫るものがあった」
怜司は少し考え込む
「どれかを一番としろというのは……」
「……難しいな」
美月の頬が
自然と緩む
「う……」
「うん!」
「そうだよね!」
「私も……同じだ……」
美月ははっとして
ちらりと達也を見る
そんな美月を見て
真帆が小さくため息をついた
「なんで怜司には分かるんだよ」
「達也もアニメを見ろ」
「人生損してるぞ」
「怜司に言われると腹立つな」
美月は笑いながら煙の来ない場所へ移動した
「ところで達也さん」
「この焚き火でお肉を焼くの?」
「いや、網で焼くからな」
「この焚き火で焼いたら火力が安定しねえし」
「煤もつくからよ」
「さっき買った備長炭を使うんだよ」
怜司が別に用意していたバーベキューコンロを示す
そこにはすでに炭が並べられ
赤く熱を持ちはじめていた
「料理の火はこっちだ」
「火は入れてある」
美月が焚き火とコンロを交互に見る
「別なんだ」
美月は感心したように頷く
「なんか本格的!」
真帆はそんな美月をちらりと見て
少しだけ目を細めた
それから、コンロを覗き込んだ
「じゃあ、そろそろ食べようよ」
「私お腹空いた~」
達也が立ち上がる
「よし!」
「バーベキュー始めるぞ!」
四人は食材の並んだテーブルを囲んで
バーベキューを始めた
達也が炭火の様子を確かめ、網を置く
怜司が次々と肉を並べていく
美月が嬉しそうにトングを持つ
「ウインナーは私が焼く!」
「美月ってやたらウインナー好きよね」
「おい」
「もう焦げてるぜ、美月さん」
「ええ! 嘘!」
「なんで!?」
肉の焼ける音と香ばしい匂いが辺りに広がる
真帆がビールを両手に持ってにこりと笑う
「飲む人~」
達也がすぐに手を挙げた
「お! いいね!」
「俺飲むぜ」
「俺は飲まない」
「え~」
「怜司さんって下戸なの?」
「飲めるが、飲まないだけだ」
「アルコールは合理的ではない」
「なにそれ、変なこと言うわね」
「美月は?」
「私も飲まない、弱いもん」
「変なこと言っちゃったら困るからでしょ~」
「って言うかさ」
「私も変なことが聞きたいんだけど」
「どうなってんのよ」
「うるさいわね」
「真帆には全部話してるでしょ!」
「だとしたら」
「言いたいことが山ほどあるんだけど」
それからしばらくして
真帆の前には
すでに空になった缶が何本か並んでいた
真帆がまた一つ
空になった缶をテーブルへ置く
達也が感心したように真帆を見た
「真帆さん」
「かなりいける口だな」
「まあね~」
「うちの家系、お酒強いのよ」
「普段はそんなに飲まないけどね~」
「本当かよ」
「そうは見えねえな」
「達也さん」
「無理して私のペースに付き合わなくていいよ」
「美月の前で酔いつぶれちゃったら」
「かっこ悪いでしょ~」
「なに言ってんだよ」
「まだまだ余裕だぜ」
「俺は酔いつぶれたことなんかねえの」
「へ~」
「それじゃ、飲み比べする?」
「私のペースについてこられたら」
「教えてあげてもいいよ~」
「なにをだよ?」
「美月の口説き方~」
「ま、まじか!」
「そんなのあんのかよ!?」
「ある……」
「かもね~」
「な……」
達也の反応を見て
真帆がにやりと笑った
「なんだよ、真帆さん」
「からかうなよ」
達也は少し悔しそうに
トングで網の上のエビを返す
「ほら」
「エビ焼けたぜ」
「真帆さん、海鮮好きなんだろ?」
達也は焼けたエビを真帆の皿へ載せる
「やった!」
「達也さん、気が利くじゃん」
「もっと褒めていいぜ!」
「私の好みまで覚えていてくれるなんて」
「気遣い上手な、いい男だね~」
「美月もそういうの見てるよ~」
「まじで!?」
達也の顔がぱっと明るくなり
思わず美月へ目を向ける
しかし美月は長い枝を手に
ナイフでその先端を一心不乱に削っていた
「見てねえじゃん……」
達也の肩がわずかに落ちる
真帆はそんな達也を見て
いたずらっぽく笑う
そして、ふと怜司へ目をやった
怜司は美月の手元をしばらく見ると
脇に置かれていた二股の鉄串を手に取った
一度水で洗い
美月の方へ歩き出す
へえ……やるじゃん
本当に思ってたのと
ぜんぜん違うわね……
真帆はもう一度達也を見る
「達也さんって」
「すぐ調子に乗るとこ、可愛いよね~」
「子供みたい」
「真帆さんっていい性格してるよな……」
「あんまり褒めないでよ~」
「褒めてねえよ」
「それじゃ」
「私のペースについてこれたら」
「美月と私の学生時代の話とか」
「教えてあげようかな~」
「まじで!?」
「言ったな?」
「真帆さん、先に潰れるなよ」
「かかってきなさ~い」
そんな二人のやり取りをよそに
美月は削っていた枝の先を確かめた
「できた!」
満足そうに頷くと
今日買ってきた大きなチーズへ
枝を突き刺そうとした
「美月、待ってくれ」
「え?」
怜司が美月の手にある枝を見る
「拾った枝を使うのは危険だ」
「危険?」
「種類によっては毒性がある」
「カビや動物の糞尿で汚染されている可能性もある」
美月は手にしていた枝をまじまじと見つめた
「これ……駄目なの?」
「ああ」
「食べ物に直接触れさせない方がいい」
「せっかく削ったのに……」
美月が残念そうに肩を落とす
怜司は手にしていた二股の鉄串を美月に見せた
「美月がやりたいのは、あれだろう?」
「分かるの?」
「有名だからな」
怜司は鉄串をチーズへ突き刺すと
炎から少し離して
焚き火の熱に当てた
しばらくすると
チーズの表面がゆっくりと溶けていく
美月が前のめりになる
「おおーーー!」
やがて表面がとろとろになると
怜司は調理台に置かれていた包丁で
表面の溶けたチーズを削ぎ落とし
黒パンの上へたっぷりとのせた
怜司は包丁と鉄串を脇の台へ置くと
黒パンを美月へ差し出した
美月の顔が明るくなる
「これよ!」
「私がやりたかったの!」
「ラクレットだ」
「完全な再現とはいかないが」
美月は黒パンを両手で受け取った
とろりと溶けたチーズから
香ばしい匂いが立ち上っている
「いただきます!」
美月は待ちきれずにかじりついた
「んっ!」
「あつっ!」
口元を押さえ
はふはふと息を吐く
「美月、無理に食べるな」
「だ、大丈夫」
「これくらい……」
熱さに苦戦しながらも
美月はゆっくりと味わう
濃厚なチーズの味が
香ばしい黒パンと一緒に口の中へ広がった
「おいしい~!」
「こんな味だったのね~!」
美月は目を輝かせ
夢中でもう一口かじる
怜司はそんな美月を見て
静かに目を細めた
キャンプスペースでは
真帆と怜司が食材の下ごしらえをしていた
「よ~し」
「普通に焼く分はこれくらいかな」
「怜司さん、手際いいね~」
「趣味だからな」
「え~、またまた~」
「見たら分かるよ~」
「趣味のレベルじゃないじゃん」
「真帆さんはどこかで料理を勉強したのか?」
「実家で習っただけだよ~」
「あとは、叔父さんの喫茶店を手伝ってるくらいだね」
「見れば分かる」
「真帆さんは俺より上だ」
「そんなたいしたものじゃないって」
「じゃあ次は」
「下味をつけたものも用意しようよ」
「というと?」
真帆はボウルに肉を入れると
ローズマリーの葉を茎から外し
タイムの葉をしごき取る
それを包丁で細かく刻み始めた
「真帆さん」
「これはローズマリーか?」
「うん」
「ローズマリーとタイム」
「あと、潰したにんにくも入れて」
「オリーブオイルと一緒に揉み込むの」
怜司が少し驚いたように真帆を見る
「香草はよく使うのか?」
「使うよ~」
「煮込みならブーケガルニも作るし」
「鶏の出汁を取る時も」
「香味野菜を一度焼いてから入れたりするよ~」
怜司は少し考え込む
「なるほど……」
「俺はやったことがない」
怜司は真帆の手元を見る
「俺にも手伝わせてくれ」
「もっと教えてもらってもいいか?」
「いいよ~」
「怜司さんなら覚えるの早そうだし」
「真帆さん」
「ん?」
「師匠と呼ばせてくれ」
「いや……」
「それはやめてよ」
「連絡先を交換できないか?」
「俺も真帆さんと友達になりたい」
真帆が少しだけ呆れた顔で怜司を見る
「美月とのグループLINEならいいけど」
「分かった」
「美月に頼んでみる」
真帆が驚いて心配そうに怜司を見た
「余計なお世話だけどさ」
「それ美月に言うのはやめときな」
「なぜだ?」
「絶対変な誤解されるよ」
「怜司さん、ちゃんと説明できなそうだし」
「自ら退場しなくてもよくない?」
「どういう意味だ?」
真帆は答えようとして
ふと口を止めた
あれ……?
私、なんでこんなこと言ってんの?
「……さあね~」
真帆は手元へ視線を戻す
「じゃあ次は――」
しばらくして
美月と達也がキャンプスペースへ戻ると
真帆と怜司は食材の下ごしらえを終えていた
「ただいま~!」
「いっぱい拾ってきたよ!」
美月が得意げに薪の入った袋を持ち上げる
真帆はまず美月の顔を見た
それから
その後ろにいる達也へ目をやる
達也は何も言わず
薪の袋を地面へ置いた
そのまま袋の口を開き
中の薪を取り出し
焚き火台のそばへ積み始める
真帆はそんな達也をじっと見る
あ……
これ、告ってないわ……
真帆の視線が美月へ戻る
「美月……」
「な、なによ」
「別にいいでしょ!?」
「私、なにも言ってないよね」
「真帆は顔が煩いのよ」
「そりゃ煩くもなろうってもんじゃないの?」
「本当の本当に」
「大丈夫なんでしょうね」
美月は困ったように俯く
「大丈夫……」
真帆が美月の顔を覗き込んだ
「声、小さくない?」
達也が二人の会話を遮るように
大きく咳払いをする
「ほら、美月さん」
「火起こすんだろ?」
「う、うん! やる!」
美月は逃げるように達也に駆け寄った
達也はテントの前に置いた焚き火台へ
細い枝から順番に薪を組んでいく
「太いやつは燃えにくいからな」
「まず細いやつからだ」
「なるほど~」
美月は達也の真似をしながら薪を並べる
「これでいい?」
「おう」
「結構うまいじゃねえか」
「予習の成果ね!」
「アニメで見たわ!」
「薪の選び方は全滅だったけどな」
「それはもう忘れてよ」
やがて小さな炎が薪へ移り
ぱちぱちと音を立てながら大きくなっていく
「ついた!」
美月が嬉しそうに炎を覗き込む
「すごい!」
「なんか焚き火ってずっと見てられるね」
「だろ?」
「これがいいんだよ」
達也が満足そうに火を眺める
その時、風向きが変わった
白い煙が美月の方へまともに流れてくる
「うわっ!」
「煙!」
美月は慌てて目を閉じる
「しみる~!」
「目が~! 目が~~!」
両手で顔を押さえながら
美月が大げさによろめく
達也が眉を寄せる
「大丈夫か!? 美月さん!」
真帆が吹き出した
「達也さん、違う違う」
「それムスカだから」
「ムスカ?」
美月が目をしぱしぱさせながら達也を見る
「有名でしょ」
「そこは分かってよ」
「知らねえよ!」
「え! 見たことないの!?」
「どこの世界の人よ」
怜司が口を開く
「知っている」
「ラピュタは強く印象に残っている」
「トトロも千と千尋も……紅の豚もいいが」
「俺はナウシカが好きだ」
「初めて見た時、涙が止まらなかった」
「え……?」
美月が驚いた表情で怜司を見つめる
「泣いた?」
「怜司君って泣くの?」
「人間だから」
「泣くこともある」
「ひょっとして怜司君って」
「ジブリでナウシカが一番好き?」
「あえて言うならそうだが……」
「思い出のマーニーも好きだ、おもひでぽろぽろも……」
「ただ、火垂るの墓は胸に迫るものがあった」
怜司は少し考え込む
「どれかを一番としろというのは……」
「……難しいな」
美月の頬が
自然と緩む
「う……」
「うん!」
「そうだよね!」
「私も……同じだ……」
美月ははっとして
ちらりと達也を見る
そんな美月を見て
真帆が小さくため息をついた
「なんで怜司には分かるんだよ」
「達也もアニメを見ろ」
「人生損してるぞ」
「怜司に言われると腹立つな」
美月は笑いながら煙の来ない場所へ移動した
「ところで達也さん」
「この焚き火でお肉を焼くの?」
「いや、網で焼くからな」
「この焚き火で焼いたら火力が安定しねえし」
「煤もつくからよ」
「さっき買った備長炭を使うんだよ」
怜司が別に用意していたバーベキューコンロを示す
そこにはすでに炭が並べられ
赤く熱を持ちはじめていた
「料理の火はこっちだ」
「火は入れてある」
美月が焚き火とコンロを交互に見る
「別なんだ」
美月は感心したように頷く
「なんか本格的!」
真帆はそんな美月をちらりと見て
少しだけ目を細めた
それから、コンロを覗き込んだ
「じゃあ、そろそろ食べようよ」
「私お腹空いた~」
達也が立ち上がる
「よし!」
「バーベキュー始めるぞ!」
四人は食材の並んだテーブルを囲んで
バーベキューを始めた
達也が炭火の様子を確かめ、網を置く
怜司が次々と肉を並べていく
美月が嬉しそうにトングを持つ
「ウインナーは私が焼く!」
「美月ってやたらウインナー好きよね」
「おい」
「もう焦げてるぜ、美月さん」
「ええ! 嘘!」
「なんで!?」
肉の焼ける音と香ばしい匂いが辺りに広がる
真帆がビールを両手に持ってにこりと笑う
「飲む人~」
達也がすぐに手を挙げた
「お! いいね!」
「俺飲むぜ」
「俺は飲まない」
「え~」
「怜司さんって下戸なの?」
「飲めるが、飲まないだけだ」
「アルコールは合理的ではない」
「なにそれ、変なこと言うわね」
「美月は?」
「私も飲まない、弱いもん」
「変なこと言っちゃったら困るからでしょ~」
「って言うかさ」
「私も変なことが聞きたいんだけど」
「どうなってんのよ」
「うるさいわね」
「真帆には全部話してるでしょ!」
「だとしたら」
「言いたいことが山ほどあるんだけど」
それからしばらくして
真帆の前には
すでに空になった缶が何本か並んでいた
真帆がまた一つ
空になった缶をテーブルへ置く
達也が感心したように真帆を見た
「真帆さん」
「かなりいける口だな」
「まあね~」
「うちの家系、お酒強いのよ」
「普段はそんなに飲まないけどね~」
「本当かよ」
「そうは見えねえな」
「達也さん」
「無理して私のペースに付き合わなくていいよ」
「美月の前で酔いつぶれちゃったら」
「かっこ悪いでしょ~」
「なに言ってんだよ」
「まだまだ余裕だぜ」
「俺は酔いつぶれたことなんかねえの」
「へ~」
「それじゃ、飲み比べする?」
「私のペースについてこられたら」
「教えてあげてもいいよ~」
「なにをだよ?」
「美月の口説き方~」
「ま、まじか!」
「そんなのあんのかよ!?」
「ある……」
「かもね~」
「な……」
達也の反応を見て
真帆がにやりと笑った
「なんだよ、真帆さん」
「からかうなよ」
達也は少し悔しそうに
トングで網の上のエビを返す
「ほら」
「エビ焼けたぜ」
「真帆さん、海鮮好きなんだろ?」
達也は焼けたエビを真帆の皿へ載せる
「やった!」
「達也さん、気が利くじゃん」
「もっと褒めていいぜ!」
「私の好みまで覚えていてくれるなんて」
「気遣い上手な、いい男だね~」
「美月もそういうの見てるよ~」
「まじで!?」
達也の顔がぱっと明るくなり
思わず美月へ目を向ける
しかし美月は長い枝を手に
ナイフでその先端を一心不乱に削っていた
「見てねえじゃん……」
達也の肩がわずかに落ちる
真帆はそんな達也を見て
いたずらっぽく笑う
そして、ふと怜司へ目をやった
怜司は美月の手元をしばらく見ると
脇に置かれていた二股の鉄串を手に取った
一度水で洗い
美月の方へ歩き出す
へえ……やるじゃん
本当に思ってたのと
ぜんぜん違うわね……
真帆はもう一度達也を見る
「達也さんって」
「すぐ調子に乗るとこ、可愛いよね~」
「子供みたい」
「真帆さんっていい性格してるよな……」
「あんまり褒めないでよ~」
「褒めてねえよ」
「それじゃ」
「私のペースについてこれたら」
「美月と私の学生時代の話とか」
「教えてあげようかな~」
「まじで!?」
「言ったな?」
「真帆さん、先に潰れるなよ」
「かかってきなさ~い」
そんな二人のやり取りをよそに
美月は削っていた枝の先を確かめた
「できた!」
満足そうに頷くと
今日買ってきた大きなチーズへ
枝を突き刺そうとした
「美月、待ってくれ」
「え?」
怜司が美月の手にある枝を見る
「拾った枝を使うのは危険だ」
「危険?」
「種類によっては毒性がある」
「カビや動物の糞尿で汚染されている可能性もある」
美月は手にしていた枝をまじまじと見つめた
「これ……駄目なの?」
「ああ」
「食べ物に直接触れさせない方がいい」
「せっかく削ったのに……」
美月が残念そうに肩を落とす
怜司は手にしていた二股の鉄串を美月に見せた
「美月がやりたいのは、あれだろう?」
「分かるの?」
「有名だからな」
怜司は鉄串をチーズへ突き刺すと
炎から少し離して
焚き火の熱に当てた
しばらくすると
チーズの表面がゆっくりと溶けていく
美月が前のめりになる
「おおーーー!」
やがて表面がとろとろになると
怜司は調理台に置かれていた包丁で
表面の溶けたチーズを削ぎ落とし
黒パンの上へたっぷりとのせた
怜司は包丁と鉄串を脇の台へ置くと
黒パンを美月へ差し出した
美月の顔が明るくなる
「これよ!」
「私がやりたかったの!」
「ラクレットだ」
「完全な再現とはいかないが」
美月は黒パンを両手で受け取った
とろりと溶けたチーズから
香ばしい匂いが立ち上っている
「いただきます!」
美月は待ちきれずにかじりついた
「んっ!」
「あつっ!」
口元を押さえ
はふはふと息を吐く
「美月、無理に食べるな」
「だ、大丈夫」
「これくらい……」
熱さに苦戦しながらも
美月はゆっくりと味わう
濃厚なチーズの味が
香ばしい黒パンと一緒に口の中へ広がった
「おいしい~!」
「こんな味だったのね~!」
美月は目を輝かせ
夢中でもう一口かじる
怜司はそんな美月を見て
静かに目を細めた
