不動産王子に求婚されたのでオタクにしてやりました

怜司は美月の皿を見る

「それより美月、料理が冷めてしまう」
「これも食べてみないか?」

「野菜作りを教えてもらっている人から、カボチャを貰ったんだ」
「天ぷらにしてみた」

「え? カボチャ?」
「私、好きなのよ」

美月は笑顔になって椅子に座る

「美月がカボチャを好きでよかった」

「食べてくれ」

怜司はカボチャの天ぷらを美月のおかずのお皿に2つ置いた

「ありがとう!」

美月はさっそくカボチャの天ぷらを一口食べる

衣はサクッとしていて、中からカボチャの甘みが広がった

「おいしいいいいい」
「こんなにおいしいカボチャの天ぷら初めてだよ~」

そんな美月を見て怜司が小さく笑う

「俺は、美月の笑顔の作り方が、分かってきた」

「なによそれ……」

美月はもう一つ天ぷらを取ろうとして

ふと、怜司の手元を見た

「あれ?」

怜司の持つ箸に見覚えがある

「その箸……」
「使ってくれてるんだ」

「ああ」
「これは使う用だ」

「使う用?」

怜司は壁へ視線を向けた

美月もつられてそちらを見る

「え……?」

そこには

子供の頃に描いた『漆黒の王子』の絵

その隣に

細長い透明なケースが飾られていた

中に入っているのは

美月が怜司の誕生日プレゼントに作った箸だった

「ちょっと待って」
「これは何!?」

「保存用だ」
「今使っているのは複製したものだ」

「保存用ってなによ!?」
「なんで箸が増えてるの!?」

「美月が作った箸を3Dスキャンしてデータ化した」
「これは、そのデータを元に再現したものだ」

美月は怜司の箸と

壁に飾られた箸を交互に見る

「はあ?」
「なんでそんなことするのよ」
「普通に使ってよ」

「使えば傷むだろう」
「二度と手に入らない貴重なものだ」
「使うなどとんでもない」

「なによそれ……」
「大事にしてくれてるのに」
「あんまり嬉しく感じないわね」

美月が大きなため息をついた

「そんなことしなくても」
「また作ってあげ――」

そこまで言いかけて美月は慌てて自分の口を手で押さえた

また……

私……なにをやってるのよ……

傍にいてくれたのは……

達也さんでしょ……?

美月は唇を噛んだ

「美月、実は君に聞きたい事があったんだ」

「え? なに?」

「今度の日曜日、達也とキャンプに行くんだ」
「美月も来てくれたら嬉しい」
「達也も喜ぶ」

「達也さんが?」
「私も? キャンプ?」

今の私が……

二人と一緒にキャンプ……

美月は少し俯き

視線を泳がせた

「もしよければ真帆さんも誘ってほしい」
「4人で行ければいいと思っている」
「美月にはもちろん」
「真帆さんにも色々と心配を掛けた」
「そのお詫びもしたい」

美月はわざとおどけるように言った

「ええ~……」
「どうかなぁ……」
「それにキャンプってお泊まり?」

「そうだ」

「泊まりはちょっと……」
「誘ってくれたのは嬉しいけどさ」
「真帆だって、いくら達也さんが相手でも警戒するよ」

「俺は警戒しないのか?」

「怜司君は前科があるでしょ」
「警戒どころじゃないわ」

「そ、そうか……」

「なんてね……」
「今の怜司君なら、そこまで警戒してないよ」

「キャンプと言っても」
「コテージのようなものだ」
「部屋は君たちと俺たちで分かれている」
「費用は俺が出す」
「楽しんでもらえると思うのだが」

「んー……」
「じゃ……真帆次第ってことで」
「一応聞いてみるわ」
「きっと、駄目だからね」

「ああ」
「ありがとう」

翌日

美月は会社に出社しお昼を真帆と食べていた

美月は怜司に誘われたキャンプ旅行について真帆に聞いた

真帆はサラっと返事する

「奢りなんでしょ?」
「だったらいいよ」

「え!? いいの!?」

「うん、いいよ」
「相手は達也さんと怜司さんなんでしょ?」

「なんでいいのよ!?」
「真帆にとっては、ほとんど知らない男の人じゃない」

「だって私は危なくないでしょ」
「その二人、どっちも狙ってるのは美月じゃん」

「なによそれ」
「どういうことよ」

「美月と旅行に行きたいから誘ってるんでしょ?」
「私はおまけよ、安全圏から楽しませてもらうわ」
「それに、どんな奴か知っておきたいのよね」
「美月を好き放題に振り回してくれてるっぽいし」

「私……」
「行きたくなくなってきたわ……」

「え~、行こうよ、無料なんだし」
「美月だって、まんざらでもないんだから」
「ちゃんと二人のことを知らないとダメよ」
「私も付き合ってあげるから」

「真帆は無料で旅行に行きたいだけじゃん」

「そうだよ」
「そりゃそうでしょ」
「私になんの得があるのよ」
「どっちかと上手くいったら美月盗られるんだよ」
「いいことなんか一つもないじゃない」

「盗られるってなによ」
「変なこと言わないで」

「あ~」
「そういうこと言うの?」
「私に彼氏が出来た時、機嫌悪そうだったじゃん」
「『友達ほったらかし罪』て、怒ってたでしょ」

「学生の頃の話でしょ!」
「だって真帆」
「本当に私と全然遊んでくれなくなったんだもん」
「あんなの文句くらい言うわよ」

「美月も彼氏が出来たら怪しくない?」

「怪しくないわよ!」

「そのセリフ、覚えておいてね」
「録音するから、もう一回言って」

「やだよ!」

真帆は小さく笑ってから

美月の顔を覗き込む

「ところでさ」
「どっちにする気なの?」

「え?」

「達也と怜司、どっちにするのよ」
「それによって、立ち回りに気を遣うんだから」
「私には先に教えてよ」

美月は小さくなって黙り込んでしまった

「わかんない……」

真帆は小さく笑った

「そっか……」

「でも」

「でも?」

「達也さんを誰よりも好きになるって……」
「決めてる」

「ふ~ん……」
「私も達也さん派だけどさ」
「じゃあ、達也さんに」
「この旅行で返事するの?」

美月は少し黙ってから

小さく頷いた

「ちゃんと伝えるつもり」

「それって」
「本当に大丈夫なの?」

「うん……大丈夫」

「だったら」
「もう少しましな顔で言ってよね」

二人の間に

長い間があった

「真帆……私ね」
「達也さんなら……信じられる」

真帆はしばらく美月を見つめた

「そっか……」
「だったら」
「しょうがないなぁ」

こうして

次の休日に4人でのキャンプ旅行が決まった