「...浅井殿、今、なんと申された」
江戸城の一室ではこれからの世にかかわる大事な会議がなされていた。
この場にいるのは豊臣秀吉・徳川家康・前田利家・柴田勝家。そして、浅井長政の5名だ。
「...もう一度、義兄上殿の...信長様の遺言状に書かれていることをそのまま、読ませていただきます。」
「『余の次の将軍は徳川家康。この話は主上にも通しておる。主上も了承済みじゃ。』以上になります。」
「信長様が帝へ次代の将軍の打診の手紙を書き、それを内密に帝のもとへ運び、帝が了承されるところを見届け、帝からの承諾したという旨が書かれたものを信長様のところへ持ち帰ったのは、...私、浅井長政にございます。
...そのため、これは徳川殿の策略などではなく、信長様の...義兄上殿の意思で決められたことであります。
ここでの話し合いで別のものに変更するほうがいいと決定したとて、すでに決まっていることを変更することは難しいかと...。
この中で一番の若造がまとめ上げて申し訳ありませぬが、こちらの信長様の遺言通り家康殿に次代の将軍を任せてもよろしいでしょうか。」
一番に声を上げたのは柴田勝家だった。
「私は賛成ですぞ。信長様は老いぼれて思うように動くこともかなわんくなった私をずっとそばに置いてくださった。反対の理由などありませぬ。」
その次には徳川家康が口を開く。
「儂は、信長殿が儂を信頼し時代の将軍においてくださったことに見合うような働きをしていきたい。そのためにはここにいる全員の助けを借りたいと思っておる。みな、儂を助けてくれると嬉しい。」
浅井長政も「私は義兄上殿から直接話を聞き、賛成派としてこの場に参りましたので。」と話す。
すると豊臣秀吉は、ついに堪えきれなくなったように口を開いた。
「...儂は反対じゃ。いくら尊敬する信長様の遺言に書かれていることであろうと、儂は次代の将軍は儂だと思っていた。それが儂よりも6歳も下の徳川に奪われるのは非常につまらん。このまま徳川が将軍になるのであれば、儂が戦いを起こし、勝って将軍の地位について見せよう。その場合、浅井。お前から妻のお市を奪ってやる。」
「…………」
長政は何も答えなかった。
ただ、先ほどまで穏やかだった目から、静かに光が消えた。
「...ずっと黙っているが利家、そなたはもちろん儂の陣営につくよな?」
やがて長い沈黙の後、前田利家は口を開く。
「...秀吉。...俺はその場合、お前の陣営には入らず、家康殿の陣営に着く。」
その言葉にびっくりしたのか豊臣秀吉は焦って口を開く。
「はぁ?!なぜじゃ!?そなたは儂の言うことを何でも聞いてきてくれたではないか!今回も儂の言うことを聞けばデカい褒美を使わすと言っておるのじゃ!」
「秀吉、俺が今までお前の言うことを聞いてきたのはお前が信長殿の信頼する家臣の一人だったからだ。俺は、あくまで信頼をしてくれていた信長殿の期待に応えたいだけじゃ。もちろん、信長殿の家臣の中ではお前との仲が一番良かったがそれとこれとは別じゃ。信長殿が家康殿に次代の将軍を任せると言ったのであれば俺はその言葉に従い、家康殿の家臣となる。」
「...お前が今考えているであろう浅井殿が信長殿の義弟としての立場を使って信長殿の遺言を変えたという可能性に関しては、俺はないと思っている。長政殿とは娘のことがあってよく話す機会があったが、娘から聞いていた通り、長政殿そんな腹黒い策略などを思うこともないだろうし、これから考えることもないだろうという印象だった。」
「...それにしても娘の言っていた妙な事が的中するとはな。」
「千代殿が...?」
「少し前に娘が前田の家に孫たちを連れてきた時があったのだが、その時に娘が言っていた妙なことがやけに真実味があってな。覚えておったのだ。」
「そのとき、千代殿は何と。」
「もし、信長殿が病気等で死ぬとしたら、おそらく信長殿は江戸を短期間で開いた功績として家康殿を次代の将軍に指名するだろうから次代の将軍は自分だと思っていそうなお前が戦を起こすかもと、信長殿がどうして家康殿を指名したのかまで言っていたのだが...」
「長政殿のその顔を見るあたりそちらの予想も的中したのだろう?これは信長殿が重い病気だと伝えられる前に聞いたことだったが本当に当たるとは...」
「秀吉、俺は信長殿の家臣という意味でもお前の陣営に入ることはないが...お前の陣営に入ったら娘にも孫たちにも会えなくなってしまうのでな。俺がお前の陣営に入ることは、たとえまつや娘、孫たちが人質に取られようと、お前に脅されようと、まつのほうから説得されようともあり得ないのでな。あきらめるほうが良い。」
「ぐぅっ...儂は絶対に徳川!お前から天下を奪ってやり、徳川に味方した利家にもほかの二人にも制裁を下してやるから首を洗って待っとけ!!」
そう言って豊臣秀吉はこの部屋から出て行った。
「……千代殿が」
長政は、静かに息を吐いた。
あの娘ならば、あるいは...
そう思ったことは、一度や二度ではない。
「利家殿。あなたは、本当に良い娘をお持ちですな」
「...俺には、少々出来すぎた娘だがな」
利家は苦笑した。
そしてこのとき誰も知る由はなかった。
この天下を巡る争いの始まりに、一人の少女が関わっていたこと、もう一人、ある少年も関わっていたことに
江戸城の一室ではこれからの世にかかわる大事な会議がなされていた。
この場にいるのは豊臣秀吉・徳川家康・前田利家・柴田勝家。そして、浅井長政の5名だ。
「...もう一度、義兄上殿の...信長様の遺言状に書かれていることをそのまま、読ませていただきます。」
「『余の次の将軍は徳川家康。この話は主上にも通しておる。主上も了承済みじゃ。』以上になります。」
「信長様が帝へ次代の将軍の打診の手紙を書き、それを内密に帝のもとへ運び、帝が了承されるところを見届け、帝からの承諾したという旨が書かれたものを信長様のところへ持ち帰ったのは、...私、浅井長政にございます。
...そのため、これは徳川殿の策略などではなく、信長様の...義兄上殿の意思で決められたことであります。
ここでの話し合いで別のものに変更するほうがいいと決定したとて、すでに決まっていることを変更することは難しいかと...。
この中で一番の若造がまとめ上げて申し訳ありませぬが、こちらの信長様の遺言通り家康殿に次代の将軍を任せてもよろしいでしょうか。」
一番に声を上げたのは柴田勝家だった。
「私は賛成ですぞ。信長様は老いぼれて思うように動くこともかなわんくなった私をずっとそばに置いてくださった。反対の理由などありませぬ。」
その次には徳川家康が口を開く。
「儂は、信長殿が儂を信頼し時代の将軍においてくださったことに見合うような働きをしていきたい。そのためにはここにいる全員の助けを借りたいと思っておる。みな、儂を助けてくれると嬉しい。」
浅井長政も「私は義兄上殿から直接話を聞き、賛成派としてこの場に参りましたので。」と話す。
すると豊臣秀吉は、ついに堪えきれなくなったように口を開いた。
「...儂は反対じゃ。いくら尊敬する信長様の遺言に書かれていることであろうと、儂は次代の将軍は儂だと思っていた。それが儂よりも6歳も下の徳川に奪われるのは非常につまらん。このまま徳川が将軍になるのであれば、儂が戦いを起こし、勝って将軍の地位について見せよう。その場合、浅井。お前から妻のお市を奪ってやる。」
「…………」
長政は何も答えなかった。
ただ、先ほどまで穏やかだった目から、静かに光が消えた。
「...ずっと黙っているが利家、そなたはもちろん儂の陣営につくよな?」
やがて長い沈黙の後、前田利家は口を開く。
「...秀吉。...俺はその場合、お前の陣営には入らず、家康殿の陣営に着く。」
その言葉にびっくりしたのか豊臣秀吉は焦って口を開く。
「はぁ?!なぜじゃ!?そなたは儂の言うことを何でも聞いてきてくれたではないか!今回も儂の言うことを聞けばデカい褒美を使わすと言っておるのじゃ!」
「秀吉、俺が今までお前の言うことを聞いてきたのはお前が信長殿の信頼する家臣の一人だったからだ。俺は、あくまで信頼をしてくれていた信長殿の期待に応えたいだけじゃ。もちろん、信長殿の家臣の中ではお前との仲が一番良かったがそれとこれとは別じゃ。信長殿が家康殿に次代の将軍を任せると言ったのであれば俺はその言葉に従い、家康殿の家臣となる。」
「...お前が今考えているであろう浅井殿が信長殿の義弟としての立場を使って信長殿の遺言を変えたという可能性に関しては、俺はないと思っている。長政殿とは娘のことがあってよく話す機会があったが、娘から聞いていた通り、長政殿そんな腹黒い策略などを思うこともないだろうし、これから考えることもないだろうという印象だった。」
「...それにしても娘の言っていた妙な事が的中するとはな。」
「千代殿が...?」
「少し前に娘が前田の家に孫たちを連れてきた時があったのだが、その時に娘が言っていた妙なことがやけに真実味があってな。覚えておったのだ。」
「そのとき、千代殿は何と。」
「もし、信長殿が病気等で死ぬとしたら、おそらく信長殿は江戸を短期間で開いた功績として家康殿を次代の将軍に指名するだろうから次代の将軍は自分だと思っていそうなお前が戦を起こすかもと、信長殿がどうして家康殿を指名したのかまで言っていたのだが...」
「長政殿のその顔を見るあたりそちらの予想も的中したのだろう?これは信長殿が重い病気だと伝えられる前に聞いたことだったが本当に当たるとは...」
「秀吉、俺は信長殿の家臣という意味でもお前の陣営に入ることはないが...お前の陣営に入ったら娘にも孫たちにも会えなくなってしまうのでな。俺がお前の陣営に入ることは、たとえまつや娘、孫たちが人質に取られようと、お前に脅されようと、まつのほうから説得されようともあり得ないのでな。あきらめるほうが良い。」
「ぐぅっ...儂は絶対に徳川!お前から天下を奪ってやり、徳川に味方した利家にもほかの二人にも制裁を下してやるから首を洗って待っとけ!!」
そう言って豊臣秀吉はこの部屋から出て行った。
「……千代殿が」
長政は、静かに息を吐いた。
あの娘ならば、あるいは...
そう思ったことは、一度や二度ではない。
「利家殿。あなたは、本当に良い娘をお持ちですな」
「...俺には、少々出来すぎた娘だがな」
利家は苦笑した。
そしてこのとき誰も知る由はなかった。
この天下を巡る争いの始まりに、一人の少女が関わっていたこと、もう一人、ある少年も関わっていたことに


