運命の番の妹様は、溺愛されて幸せです!〜今更、私が番だったと言われても困ります〜

「スカーレット様、今日もとってもお美しかったわよね」
 おそらく私以外の全国民が待ち望んだ竜王陛下とその番である姉スカーレットの結婚式まで、あと3日。

「本当に陛下とスカーレット様はお似合いね」
「当たり前だわ! 陛下とスカーレット様は神に定められた運命の伴侶なのだから」

 王城内のどこを歩いても聞こえてくるのは、姉の話ばかりだ。

 竜王の番、それは――竜王陛下が生まれる前……それこそ、神の国にいるときに今世で伴侶にすると決めた相手であり、何にも代え難い至宝のごとき存在だ。
 だからこそ、竜王陛下は番を深く愛し、大切に扱う。

 そんなお伽話のような特別な存在に憧れる……こともあるのかもしれない。

 自分に何も被害がなければ。

 そんなことを考えながら、うっとりと姉の話をしている侍女たちの前を通り過ぎる。
「あら、妹様よ」
「でも、正直図々しいわよね。いくらスカーレット様のご厚意だって……」

 ……その通り。両親ならともかく、単なる妹の私までこうして王城に住んでいるのは、かなりおかしな状況だ。
 貴族の端くれとして私も政略結婚を急ぐべきだろう。

 ……それでも、そうできない理由があった。
「妹、こんなところにいたのか」
 聞き慣れた声に振り向くと、予想の通りお父様が立っていた。
「お父様、お探しでしたか?」
「スカーレット様がお前を呼んでいたぞ」
 一瞬だけ期待してしまった心は急速に萎む。

 最後にお父様と姉がらみ以外で会話をしたのはいつだっただろう。

「そう……でしたか」
「ああ。妹まで気にかけるなんて、さすがは優しいスカーレット様だな」
 誇らしげに髭を撫でつけながら、お父様は続ける。
「お前もスカーレット様の妹としてもっと自覚を持った行動をしなさい」
「……そうですね」
 もっともらしく頷きながら、微笑んで見せる。
「ああ。お待たせないように、早く行きなさい」



 ――姉の部屋へと急ぎながら、ふと考える。
 私の価値は、番である姉……スカーレットの妹である、というだけだ。
 私が私であることにこの城では――いえ、きっと少なくともこの国では価値がない。

 だったら――……、いっそのこと。

「お待たせいたしました」
 姉の部屋に到着し、深く礼をする。
 かつて家族として対等だったはずの私たちは、過去の話だ。

 目の前の姉はこの国で最も尊い女性。そして、私はそんなおこぼれに預かるだけの妹だ。
「……ああ、きたのね」
 何かを熱心に書いていた顔を上げて、姉は微笑んだ。
「もう少しだから、座って待っていて」
「かしこまりました」


 姉の指示通り、ソファに座る。
 今日は……あの人はいないのね。良かった。
 ――内心で不敬なことを考える。
 私は姉に会いに来るのが好きではない。だって、姉に会いに行く度にあの美しくて恐ろしい人が姉にべったりとくっついている。

 それだけなら良かったのだが、私を呼び出した姉自身もべったりとくっついていることが常だった。

 私はそれを見るのが嫌だった。……本当になぜだかはわからないけれど。
 あの美しくて恐ろしい人だけでなく、姉までもが私をないものとして扱うのが単にむかついただけかもしれない。

 でも、いちゃつく恋人たちは得てしてそういうものだ。それが運命の伴侶となれば、なおさらだろう。……そんなことわかっているのに、嫌だと思う自分が不思議だった。


「待たせたわね」
 ぼんやりを考えていると、姉が私の向かい側のソファに座った。ようやく書き物が終わったらしい。

「……いえ」
 小さく首を横に振る。
 あの人がいないなら、別に何分待っても構わない。
「単刀直入に言うわね。――ねぇ、あなた。この国をでるつもりはない?」