眠れない夜のひまつぶし【SS】

お題【ハンカチ】

下校途中にアスファルトにハンカチを落とした男の子が振り返る。拾おうとすると、走り抜ける自転車の風圧でふわりとハンカチが舞い上がり、宙高く浮かび上がって水路を越えていく。回り込んで拾おうと手を伸ばすと、今度はトラックの排気ガスでぶおんとハンカチが飛んでいく。ハンカチが知らない家の敷地に入って、窓を通って出てきて、赤い屋根の家を超える。ぷかりぷかりと浮かぶハンカチをぜえぜえ言いながら追いかけていると、ハンカチは病院の一室に舞い込む。ハッとして胸を抑えた男の子がふらふらになりながら病院の階段を上がり、病室の前で立ちすくんでいると、窓もないのにぶわっと男の子の背中を押すような風が吹く。振り返るけど病院の廊下が広がるばかり。呆然としていると、正面から名前を呼ばれる。来てくれたのね、と微笑んだのは病室のベッドに横たわる男の子のお母さん。お母さんのすぐそばには赤ちゃんが横たわっていて、男の子の顔を見ると笑った気がした。同時に風が吹き抜けて、ぐっと拳を握った男の子は、ずっと会いに来られなくてごめんとお母さんのベッドのそばに落ちたハンカチを拾う。男の子の手の中でひらひらと揺れるハンカチに興味津々な赤ちゃんを見て、お母さんがこの子もお兄ちゃんのことが大好きみたいと微笑む。その一言で、男の子はほっと肩に入っていた力を抜いて、赤ちゃんにぼくも大好きだよと笑いかける。