「未来の、俺……?」
湊はしばらく動かなかった。
当然だと思う。
私だって、当事者じゃなければ信じない。
私は雨の日の神社で起きたことを、最初から全部話した。
二十四歳だと名乗った湊。
私の名前を呼んで抱きしめたこと。
六年後の日付が刻まれた指輪。
十八歳の誕生日に私が死ぬと言われたこと。
そして。
『今の俺を、絶対に一人にするな』
「……信じろって言う方が無理あるだろ」
聞き終えた湊は、頭を抱えた。
「うん。だから、これ」
指輪を差し出す。
湊は受け取り、内側を何度も確かめた。
**MINATO & SANA**
「刻印だけなら、いくらでも作れる」
「だよね」
「でも……」
湊の指が止まった。
「ここ」
刻印の脇。
肉眼では気づかないくらい小さな、歪んだ四つ星の傷がある。
「何?」
「俺、昔からこれ描く」
湊はノートを取り出し、端に同じ形を描いた。
四本の線のうち、一つだけが少し長い。
「あ……」
「小学校のとき、お前のキーホルダーにも勝手に彫って怒られた」
思い出した。
確かに、そんなことがあった。
「これを未来の俺が自分で入れたなら、気持ちは悪いくらい分かる」
「信じる?」
「全部はまだ無理。でも、疑う理由も減った」
湊は指輪を返した。
しばらく黙ったあと、低く言う。
「未来の俺は、離れたことを後悔してるんだな」
「たぶん」
「今の俺は、お前を守るために離れようとしてる。未来の俺は、それが間違いだったって戻ってきた」
「うん」
「最悪だな」
「何が?」
「七年経っても、俺、同じことで悩んでる」
少しだけ笑った。
でも、その笑いはすぐ消えた。
「紗奈」
「なに」
「怖くないのか」
「怖いよ」
「なら、なんで一緒にいるって言える」
答えは、もう決まっていた。
「湊だから」
「それだけ?」
「……好きだから」
言った瞬間、顔が熱くなった。
未来で結婚すると聞いたからじゃない。死ぬと告げられたせいでもない。
毎朝、隣の家のドアが開く音を無意識に待っていた頃から。「嫌い」と言われて、それでも他の誰かに笑う湊を見て胸が痛んだ頃から。私はずっと、湊が好きだった。
湊の目が大きくなる。
「い、今それ言う場面か?」
「私だって言うつもりなかったよ!」
「じゃあ撤回しろ」
「それは嫌」
「どっちだよ!」
思わず二人で笑った。
久しぶりだった。
湊と、こんなふうに普通に笑うのは。
笑いが収まると、湊は少しだけ真剣な顔になった。
「……俺は今、好きとか嫌いとか、簡単に返事できない」
胸がきゅっとなる。
「そっか」
「違う。そういう意味じゃなくて」
湊は焦って右耳へ手をやり、途中で気づいて引っ込めた。
「まず、お前をちゃんと生かす。家のことも片づける。そのあとで言う」
「何を?」
「言わせんな」
「未来の湊はもっと素直だったけど」
「七年後の俺と比べんな!」
その言い方がおかしくて、また笑ってしまう。
「分かった」
「何が」
「離れるの、やめる」
胸が大きく鳴った。
「本当に?」
「ああ。ただし、一人で勝手に動くな。俺も一人で抱え込まない」
「約束?」
「約束」
湊が小指を出す。
子どもの頃、何度もした指切り。
私も小指を絡めた。
「守るから。今度こそ」
「二人で、でしょ」
湊は少し驚いたあと。
「……そうだな」
初めて、そう言ってくれた。
湊はしばらく動かなかった。
当然だと思う。
私だって、当事者じゃなければ信じない。
私は雨の日の神社で起きたことを、最初から全部話した。
二十四歳だと名乗った湊。
私の名前を呼んで抱きしめたこと。
六年後の日付が刻まれた指輪。
十八歳の誕生日に私が死ぬと言われたこと。
そして。
『今の俺を、絶対に一人にするな』
「……信じろって言う方が無理あるだろ」
聞き終えた湊は、頭を抱えた。
「うん。だから、これ」
指輪を差し出す。
湊は受け取り、内側を何度も確かめた。
**MINATO & SANA**
「刻印だけなら、いくらでも作れる」
「だよね」
「でも……」
湊の指が止まった。
「ここ」
刻印の脇。
肉眼では気づかないくらい小さな、歪んだ四つ星の傷がある。
「何?」
「俺、昔からこれ描く」
湊はノートを取り出し、端に同じ形を描いた。
四本の線のうち、一つだけが少し長い。
「あ……」
「小学校のとき、お前のキーホルダーにも勝手に彫って怒られた」
思い出した。
確かに、そんなことがあった。
「これを未来の俺が自分で入れたなら、気持ちは悪いくらい分かる」
「信じる?」
「全部はまだ無理。でも、疑う理由も減った」
湊は指輪を返した。
しばらく黙ったあと、低く言う。
「未来の俺は、離れたことを後悔してるんだな」
「たぶん」
「今の俺は、お前を守るために離れようとしてる。未来の俺は、それが間違いだったって戻ってきた」
「うん」
「最悪だな」
「何が?」
「七年経っても、俺、同じことで悩んでる」
少しだけ笑った。
でも、その笑いはすぐ消えた。
「紗奈」
「なに」
「怖くないのか」
「怖いよ」
「なら、なんで一緒にいるって言える」
答えは、もう決まっていた。
「湊だから」
「それだけ?」
「……好きだから」
言った瞬間、顔が熱くなった。
未来で結婚すると聞いたからじゃない。死ぬと告げられたせいでもない。
毎朝、隣の家のドアが開く音を無意識に待っていた頃から。「嫌い」と言われて、それでも他の誰かに笑う湊を見て胸が痛んだ頃から。私はずっと、湊が好きだった。
湊の目が大きくなる。
「い、今それ言う場面か?」
「私だって言うつもりなかったよ!」
「じゃあ撤回しろ」
「それは嫌」
「どっちだよ!」
思わず二人で笑った。
久しぶりだった。
湊と、こんなふうに普通に笑うのは。
笑いが収まると、湊は少しだけ真剣な顔になった。
「……俺は今、好きとか嫌いとか、簡単に返事できない」
胸がきゅっとなる。
「そっか」
「違う。そういう意味じゃなくて」
湊は焦って右耳へ手をやり、途中で気づいて引っ込めた。
「まず、お前をちゃんと生かす。家のことも片づける。そのあとで言う」
「何を?」
「言わせんな」
「未来の湊はもっと素直だったけど」
「七年後の俺と比べんな!」
その言い方がおかしくて、また笑ってしまう。
「分かった」
「何が」
「離れるの、やめる」
胸が大きく鳴った。
「本当に?」
「ああ。ただし、一人で勝手に動くな。俺も一人で抱え込まない」
「約束?」
「約束」
湊が小指を出す。
子どもの頃、何度もした指切り。
私も小指を絡めた。
「守るから。今度こそ」
「二人で、でしょ」
湊は少し驚いたあと。
「……そうだな」
初めて、そう言ってくれた。



