それから急いで仕事を終わらせたあたしたちは、ビアガーデンに来ていた。
総務部有志で、納涼会という名の親睦会だ。
「それではカンパーイ!」
「カンパーイ!!」
カラフルなぼんぼりの灯りが、夏の夜を賑やかに照らしている。
ほんのり汗ばむ気温も、冷えたビールを美味しく飲むスパイスだ。
「おいしぃっ!」
「働いたあとのビールは最高~!」
「小鳥遊さんも食べ飲み放題だから、遠慮せずにね」
「ありがとうございます」
総務部の新人はあたしだけ。
先輩たちは優しくて、気遣いもある。
(働きやすい職場で、ほんとに良かった……)
皆和気あいあいと、いろんな話に花を咲かせていく。
するといつの間にか、話題が"情シスの悪魔"になっていた。
「聞いた~?営業部の日下さん、悪魔に告白してフラれたらしいよ?」
「えっ?!その前は秘書課の超美人じゃなかった?」
「その前は、受付の上原さんでしょ?」
名前が挙がった人たちは、新人のあたしでも知っているほどの美人ばかりだ。
しかも、仕事もできるらしい。
(そんな人たちもフラれるんだ……)
何ともいえない気持ちを、ビールと一緒に飲み込む。
すると別の先輩が、急に声をひそめる。
「実はさ、私この前、佐久間主任に告白したの」
「「えっ!!」」
男女問わず、皆が前のめりで続きを聞く。
「ちょっ、そんな食いつかないでよ!」
「で!? どうだったんですか!?」
「どうもこうも見事に玉砕。『無理』ってそれだけ」
「うわぁ……悪魔……」
(……よかった)
胸が痛むより先に、ほっとしてしまう。
そう思ってしまった自分に一番驚いていると、先輩は、あっけらかんと笑って続ける。
「でもね、意外とショックじゃなかったんだよね」
「そうなの?」
「顔もいいし、仕事もできるし、そりゃ付き合えたらいいなーとは思ったけど。フラれて泣くほど好きだったわけじゃなかったみたい」
(フラれても、ショックじゃない……?)
先輩は少しだけ視線を落とし、どこか納得したように続ける。
「だからさ、たぶん私、佐久間主任に恋してたんじゃなくて、佐久間主任と付き合ってみたかっただけなんだと思う」
自分に置き換えて想像してみる。
佐久間主任に「無理」って言われたら——。
(……嫌だ)
じゃあ、佐久間主任が誰かと付き合うのは——。
(それも……嫌だ)
「……え?なんで?」
自分で自分の答えに戸惑う。
どうして嫌なのか。
その答えを考えるより先に、昼間にもらったチョコが浮かんだ。
知りたいと思った。
もっと話したいと思った。
会えたら、嬉しかった。
他の誰かに取られるのは、嫌だった。
——こんな気持ちを、あたしはまだ知らない。
手の中のチョコを見つめる。
(……もしかして、あたし)
グラスの中では、小さな泡が行き先を探すように、ふわふわと浮かび上がっていた。
総務部有志で、納涼会という名の親睦会だ。
「それではカンパーイ!」
「カンパーイ!!」
カラフルなぼんぼりの灯りが、夏の夜を賑やかに照らしている。
ほんのり汗ばむ気温も、冷えたビールを美味しく飲むスパイスだ。
「おいしぃっ!」
「働いたあとのビールは最高~!」
「小鳥遊さんも食べ飲み放題だから、遠慮せずにね」
「ありがとうございます」
総務部の新人はあたしだけ。
先輩たちは優しくて、気遣いもある。
(働きやすい職場で、ほんとに良かった……)
皆和気あいあいと、いろんな話に花を咲かせていく。
するといつの間にか、話題が"情シスの悪魔"になっていた。
「聞いた~?営業部の日下さん、悪魔に告白してフラれたらしいよ?」
「えっ?!その前は秘書課の超美人じゃなかった?」
「その前は、受付の上原さんでしょ?」
名前が挙がった人たちは、新人のあたしでも知っているほどの美人ばかりだ。
しかも、仕事もできるらしい。
(そんな人たちもフラれるんだ……)
何ともいえない気持ちを、ビールと一緒に飲み込む。
すると別の先輩が、急に声をひそめる。
「実はさ、私この前、佐久間主任に告白したの」
「「えっ!!」」
男女問わず、皆が前のめりで続きを聞く。
「ちょっ、そんな食いつかないでよ!」
「で!? どうだったんですか!?」
「どうもこうも見事に玉砕。『無理』ってそれだけ」
「うわぁ……悪魔……」
(……よかった)
胸が痛むより先に、ほっとしてしまう。
そう思ってしまった自分に一番驚いていると、先輩は、あっけらかんと笑って続ける。
「でもね、意外とショックじゃなかったんだよね」
「そうなの?」
「顔もいいし、仕事もできるし、そりゃ付き合えたらいいなーとは思ったけど。フラれて泣くほど好きだったわけじゃなかったみたい」
(フラれても、ショックじゃない……?)
先輩は少しだけ視線を落とし、どこか納得したように続ける。
「だからさ、たぶん私、佐久間主任に恋してたんじゃなくて、佐久間主任と付き合ってみたかっただけなんだと思う」
自分に置き換えて想像してみる。
佐久間主任に「無理」って言われたら——。
(……嫌だ)
じゃあ、佐久間主任が誰かと付き合うのは——。
(それも……嫌だ)
「……え?なんで?」
自分で自分の答えに戸惑う。
どうして嫌なのか。
その答えを考えるより先に、昼間にもらったチョコが浮かんだ。
知りたいと思った。
もっと話したいと思った。
会えたら、嬉しかった。
他の誰かに取られるのは、嫌だった。
——こんな気持ちを、あたしはまだ知らない。
手の中のチョコを見つめる。
(……もしかして、あたし)
グラスの中では、小さな泡が行き先を探すように、ふわふわと浮かび上がっていた。



