今日も悪魔に恋してる 〜塩対応な先輩は、絶対に好きと囁かない~

サーバールームでの出来事が、頭から離れない。

(悪魔なのか……違うのか……)

『お疲れ』

声のトーンは変わらないのに、たった三文字が強く胸を打った。 
それまでまともに挨拶さえ返してくれなかったのに。
 
(……やっぱり、分かんない)
(……それに、あの香りも)
 
気づけば、また考えている。  
遠くのほうから聞こえる山根さんの呼びかけに、今何をしていたか思い出す。 

(ダメだ……今は集中しようっ) 

右手に持ったペンを、ぎゅっと握る。

「おっ、やる気十分だね。ここまでで質問ある?」
「大丈夫です、やってみます!」
「また分からなくなったら言ってね」
「はい、ありがとうございます」
「あ、一つ。この数式を弄ると、修正は情シス部になるから」

(……情シス部?!)
(って……佐久間主任だけじゃないから)

どうも過剰に反応してしまうのは、見慣れない佐久間主任のせい。
あたしは邪念を振り払い、新しく任された備品管理に集中した。

(あれ?この商品欄、セルの幅が詰まってて見にくいかも……)

入力していたシートを引きで見て、首を傾げる。
もう少し見やすくできないかと、セルを移動させたり、コピーして並びを整えていく。
 
(あれ?)

数字を入力しても、合計欄が変わらない。
 
(え……なんで?)
 
慌てて元に戻そうとしたものの、どこを触ったのかさえ分からなくなっていた。
朝に飲んだコーヒーの苦みがよみがえる。
喉の奥がひりついて、息を整える間もなく声を絞り出した。
 
「山根さん……すみません……」    
「どうした?」

手を止めた山根さんが、パソコンとあたしの顔を交互に覗きこむ。
そして「あちゃー……」という声を漏らし、苦笑する。
      
「ひとまず情シス部に内線しよう」
「はい……」

とんでもないミスを犯したのは自分だ。

(だけど……佐久間主任じゃない人がいい……)

祈るような気持ちで、受話器を上げた。