天使とケサランパサランの靴屋

 驚いた彼女は痛みを堪えて何か言葉を発しようとしましたが、どれだけ喉を震わせても、悲しみの言葉ひとつ呟くことすらできません。

 彼女は、自分が美しい声まで失ってしまったことに、ただ呆然と目を丸くするばかりでした。

 あの絶望の叫びが彼女の声を枯らし、とうとう『声』そのものを奪ってしまったのでした。

 もう、美しい歌を歌うこともできない『そばかすの天使』。

 彼女は赤く傷ついた片方の翼を引きずり、舞い上がることもできず、静寂に埋もれた世界をただ一人、あてどなく彷徨い歩いていました。

 そうして命からがら辿り着いた場所が、街の外れにある、あの愛おしい靴工房でした。

 崩れた瓦礫の前には、若かりし頃の彼と、その妻エレーナが茫然と立ち尽くしています。

 ボロボロになりながらも、大好きな二人の姿がそこにあるのを見て、天使は声にならない安堵のため息を漏らしました。

 二人が無事で、本当に良かった、と。

 だが、二人が目の当たりにしている工房は、戦火の被害を免れることなく、無残にも崩れ果ててしまっていました。

 かつてあんなに温かなオレンジ色の光を放っていた場所が、今はただの灰色の山と化しています。

 妻のエレーナは愕然とした表情で、夫の袖を震える手で掴みました。