天使とケサランパサランの靴屋

 この古びた工房を昔から知る彼女が、風の背に乗り、この窓辺にふわりと舞い降りたのは、もう何十年も前のことです。

 その頃の彼女は、夜な夜な屋根から屋根へと渡り歩き、眠る人々に美しい夢を届ける天使でした。

 優しい歌を歌い、夜空で踊るように舞いながら、明日への希望や輝かしい未来、ときには過去の教訓をそっと枕元へ置いていく。

 それが、この『そばかすの天使』の仕事だったのです。

 そんなある夜のこと。

 彼女は漆黒の闇の中に、ぽっと優しく温かな明かりが灯る、一軒の小さな靴工房に気がつきました。

 トントントンッ。トントントンッ。

「ケサラン、パサラン。ケサラン、パサラン」

(ケサランパサラン……?)

 聞いたこともない心地よいリズムと歌の調べに誘われ、彼女は窓ガラスにそっと触れ、工房の中を覗き込みました。

 そこにいたのは、一心不乱に靴を作る、若い二人の姿でした。

 作業台の傍らには、片隅で静かに佇む、小さな天使の飾りがついた古いオルゴール。

 互いに見つめ合い、零れるような笑顔を見せる二人からは、天使がわざわざ与えなくとも、すでに明日への希望とまばゆい未来があふれ出ていました。

 彼らは最初から、自分たちの『夢』を持っていたのです。