天使とケサランパサランの靴屋

「おおっ、どうした? おじいちゃんは大丈夫じゃよ。明日にはおじいちゃんが、サーシャがどんなに歩いても疲れない靴を、プレゼントしてあげるからね」

 その言葉を聞き、娘は作業台に置かれた小さな靴に視線を向けます。

 それは、父が愛する孫のために、足の痛みをこらえながら一生懸命に作っている靴でした。

 ナターシャは何かを深く考え込むようにその靴を見つめ、それから何かを振り切るように、意を決して言葉を紡ぎます。

「……分かったわ、父さん。ここにパンと飲み物を置いていくから。明日、また必ず迎えに来るわ。それまでに、ちゃんと旅立ちの準備をしておいてね。……さあ、サーシャ、行きましょう」

 サーシャは母親に手を引かれ、引きずられるように歩きながらも、何度も振り返ってお爺さんを見つめました。
 そして、そのすぐ奥に佇む『翼を持つ少女』の姿を、やはり不思議そうに、じっと見つめ返すのでした。

 バタン、とドアが閉まり、二人の足音が遠ざかっていきます。

 先ほどまでの束の間の温もりが嘘のように消え去り、再びしんと静まり返った工房。

 誰の目にも映らない翼を持つ少女は、ぽつんと一人残された老人の、小さくやつれた背中をじっと見つめていました。
 そして、静かに、遠い過去の記憶を呼び覚ましていきます。

(あの頃も、あなたは同じ色の服を着ていたのに、もっと明るく輝いて見えた……。同じ温度の部屋だったのに、あなたの周りは、ずっと、ずっと暖かかった……)