瞳の奥で

 昇降口に張り出された、掲示板。たくさんの名前が羅列され、真新しい制服に身を包んだ生徒たちが自分の名前を一心に探している。友達同士なのか、複数人で一緒に来ている人もちらほらいるようだ。誰もが緊張した面持ちで名前を確認し、次々と校舎内に吸い込まれていく。それでも尚、うんざりするような人だかりは一向に引いていかない。

ーーーー人混みから離れ、昇降口の端のひっそりとしたところで、1人の少女が立ち尽くしていた。

羽野悠月(ゆづき)。本日晴れて、ここ緑高校の新入生としてめでたく入学式を迎えた者の1人だ。小柄で、肩にかかる長さの髪を低いポニーテールにまとめている。

 …………あ、離れた。まあ予想はしてたけど。

 同じ中学に通っていた人は、案の定全員クラスを離されたようだった。特段仲の良い人がいた訳ではないが、話くらいできる相手がたった1人もいないというのは、環境の変化が苦手な悠月としては誰でもいいから同じクラスが良かったかなと思ってしまうのであった。

 しばらくの後、少々人混みに気圧されていた私は意を決して、校舎内へと一歩を踏み出した。

 ーーよしっ!ここで諦める私じゃないぞ!!
   教室行けば誰かしらと話せるでしょ。

 萎みかけていた気持ちを奮い立たせ、自分の教室1-Eに向かう。みんなどれくらい集まってるかな……?



 ーーガラッ。勢いよく扉を開ける。

 ……あ。

 教室の前の方には女子、後ろの方には男子。すでにほとんど集まっていたクラスメイトたちは、男女でしっかりと分かれて固まり、スマホを片手に連絡先を交換していた。

 あ〜1番嫌なやつ。脇目も振らずに片っ端から連絡先交換して話しかけるのだけは、やりたくも見たくもなかったのに。今日は普通に話して、明日以降ぼちぼち連絡先交換すればいいのに。直接会ってるのに、電子機器を介して始まる友達とか、みんなはそれで良い訳?

 それが絶対に悪いことだと言っている訳ではない。だが、自分には共感し難いことであるというのも事実だ。それでもここで拒否してしまえば、空気の読めない愛想の悪いやつ認定をされてしまいそうなので、同じように行動を合わせてひとまず連絡先を交換してこの場をやり過ごすしかない。

 華の高校生活、登校1日目で終わった……。

 私が1人でそんなことを考えているとはつゆ知らず、クラスの中心のような雰囲気の、明るく快活そうな女子が声をかけてくれた。

「おいで!一緒話そ!」

 咄嗟に声が出るほどコミュ力のない私は、静かに微笑んで女子の輪に入れてもらった。……スマホを片手に。

 適当に、近くにいた2,3人と連絡先を交換する。あとは何となく周囲を見渡して時間を潰し、やっとのことで着席のチャイムが鳴った。

 なんかもう疲れたな……。

 式が始まる前に労力を使い切ってしまったようで、魂が抜けたように半分ぼーっとしながら新しい担任の先生の話を聞いていた。

 今日はあとどれくらいで帰れるんだろうか……。