私のイケメンヒーローは、どこかおかしい

「……リリア?」

ルーファンスは、腕の中のリリアを見つめていた。

何度呼んでも、返事はない。

「……嘘だろ」

震える手で、リリアの頬に触れる。

「なぁ……起きてくれよ」

返事はなかった。

「さっきまで……笑ってただろ」

声が震える。

「幸せだったって……言っただろ」

ルーファンスは、リリアを強く抱きしめた。

その時――。

一人の兵士が、ゆっくりと近づいてきた。

「殿下。公主を母国へお連れします」

ルーファンスの顔から、表情が消えた。

「……嫌だ」

「我々は命令を受けています」

「嫌だ……」

ルーファンスは、リリアを抱いたまま首を横に振った。

「この人には、もう何もするな」

「殿下……」

「また……俺から奪うのか?……」

兵士が一歩、近づく。

「公主をお渡しください」

「……触るな」

低い声だった。

兵士の足が止まる。

ルーファンスはゆっくりと顔を上げた。

目には、涙が残っている。

けれど、その奥にはもう悲しみだけではない何かがあった。

「この人は……誰にも渡さない」

「殿下、おやめください!」

兵士が手を伸ばす。

その瞬間――。

ルーファンスはリリアを抱きしめたまま、落ちていた剣を拾った。

立ち上がる。

「何度奪えば気が済むんだ……」

声が震えていた。

「国のためだと言って、俺たちを引き離した」

「それでも俺たちは……ようやく一緒になれた」

ルーファンスは、腕の中のリリアを見つめる。

「たった三週間だった」

涙が一筋、頬を伝った。

「たった三週間しか……幸せになれなかった」

そして、兵士たちを睨みつける。

「それすら奪うのか」

誰も答えなかった。

ルーファンスは剣を握り直した。

「もう、誰にも渡さない」

その声には、かつての冷静さはなかった。

愛する人を失った男の、最後の執念だけが残っていた。

三国の兵士たちが、一斉に武器を構える。

ルーファンスも剣を構える。

けれど――。

もう、勝つために戦うのではない。

リリアを奪われないために戦う。

それだけだった。

そしてルーファンスは、最後までリリアを腕に抱いたまま――。

剣を振り上げた。