私のイケメンヒーローは、どこかおかしい

リュミエラ国での婚姻から、しばらくの時が過ぎた。

リリアは、皇宮で変わらない日々を過ごしていた。

エリオットは約束通り、彼女を責めることなく接していた。

無理に愛を求めることもない。

ただ、リリアの心が自分に向く日を静かに待っていた。

けれど――。

そんな穏やかな日々は、長く続かなかった。

「そろそろ、お子を授かることを考えなくてはな」

父である皇帝から、そう告げられた。

リリアは黙って俯いた。

「エリオットとの間に、跡継ぎを」

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が苦しくなった。

これまで、考えないようにしていた。

婚姻した以上、いつかは向き合わなければならないことだと分かっていた。

けれど――。

どうしても、想像できなかった。

エリオットとの間に子供ができる未来を。

その夜。

一人になったリリアは、静かに窓の外を眺めていた。

「……どうして」

エリオットは優しい。

自分を責めない。

待ってくれている。

それなのに、心は動かなかった。

リリアの脳裏に浮かんだのは、あの人だった。

玄都国の庭園で出会った青年。

自分を見つめて笑ってくれた人。

結婚式の日、遠くから自分を見つめていた人。

「……ルーファンス」

名前を口にした瞬間、胸が締めつけられた。

そして、ようやく気づいた。

自分が誰を愛しているのか。

誰となら、一生を共にしたいと思えるのか。

誰との間なら、家族を作りたいと思えるのか。

答えは、最初から決まっていた。

「……私には、あなたしか無理」

その言葉を口にした瞬間。

リリアの頬を、涙が一筋流れた。

もう、迷うことはできなかった。

ルーファンスに会わなければ。

もう一度、彼に会って、自分の気持ちを伝えなければ。

リリアは、静かに決意した。

向かう場所は――玄都国。

二人が初めて出会った場所だった。