私のイケメンヒーローは、どこかおかしい

「俺は――君を愛していない」

ルーファンスは、クラリスの目を見て、はっきりと告げた。

クラリスは驚いた様子を見せた。

けれど、取り乱すことはなかった。

「……はい」

静かな返事だった。

ルーファンスは、少しだけ目を伏せる。

「君に何か問題があるわけじゃない」

クラリスは黙って聞いていた。

「君は、何も悪くない」

それは本心だった。

クラリスは、皇子の婚約者として何一つ不足のない女性だった。

礼儀正しく、聡明で、周囲への気遣いもできる。

もし、別の人生だったなら。

彼女を大切にできたのかもしれない。

けれど――。

ルーファンスの心には、もう一人の女性がいる。

「俺には、忘れられない人がいる」

クラリスの表情が、ほんの少しだけ曇った。

けれど、何も尋ねなかった。

「だから、君を妻として愛することはできない」

しばらく沈黙が続いた。

やがてクラリスは、小さく息を吐いた。

「……分かりました」

「すまない」

「謝らないでください」

クラリスは静かに首を振った。

「殿下が私を愛していないことは、何となく分かっていました」

ルーファンスは何も言えなかった。

クラリスには恋愛感情がなかった。

ルーファンスに愛されたいとも、彼の心を奪いたいとも思っていない。

だからこそ、彼女はこの婚姻を冷静に受け止めることができた。

「私も、殿下を愛しているわけではありません」

その言葉に、ルーファンスは顔を上げた。

クラリスは淡々と続けた。

「ですから、殿下が私を愛せないことを責めるつもりはありません」

その言葉に、ルーファンスは少しだけ救われた。

けれど、心の中にある苦しさが消えることはなかった。

愛する人は、自分の隣にはいない。

そして今も、遠い国にいる。

ルーファンスは静かに立ち上がった。

「……ありがとう、クラリス」

そう告げると、ルーファンスは窓の外を見つめた。

その視線の先にあるのは――。

玄都国だった。