私のイケメンヒーローは、どこかおかしい

ルーファンスは、新婚部屋から少し離れた場所に立っていた。

廊下の角に身を隠すような位置だった。

そこからなら、部屋の扉は見える。

けれど、部屋の中からは自分の姿を見ることはできない。

それでよかった。

今の自分を、誰にも見られたくなかった。

扉の向こうから、かすかにリリアの泣き声が聞こえている。

ルーファンスは、強く拳を握った。

助けに行きたい。

今すぐ彼女のところへ行きたい。

それでも、足は動かなかった。

やがて、部屋の中からエリオットの声が聞こえた。

何を話しているのかまでは、ここからでは分からない。

しばらくすると、部屋の中が静かになった。

そして――。

部屋の灯りが消えた。

「…………」

その瞬間。

ルーファンスの中で、何かが切れた。

ずっと握りしめていた拳から、力が抜ける。

膝から崩れ落ちるように、その場に座り込んだ。

「……っ」

それまで必死にこらえていた涙が、一気に溢れ出した。

声を上げることもできない。

ただ、両手で顔を覆い、肩を震わせる。

「……リリア……」

何度名前を呼んでも、返事があるはずはない。

もう、彼女は別の男の妻なのだから。

「……ごめん……」

何に対する謝罪なのか、自分でも分からなかった。

あの時、政略結婚を拒んだこと。

もっと早く彼女に出会えなかったこと。

今、彼女を連れ去ることができないこと。

すべてが悔しかった。

それでも――。

ルーファンスは、リリアを責めることだけはしなかった。

ただ愛している。

それだけなのに。

どうして、こんなにも苦しいのか。

灯りの消えた部屋を見つめながら、ルーファンスは誰にも見られない場所で、静かに泣き崩れていた。