私のイケメンヒーローは、どこかおかしい

夜が深くなった頃。

ルーファンスは、いつの間にかリリアの新婚部屋がある廊下まで来ていた。

自分でも、なぜここまで来たのか分からなかった。

ただ、一目だけでも彼女の姿を見たかった。

けれど、目の前にあるのは閉ざされた扉だけだった。

その時――。

扉の向こうから、かすかな声が聞こえた。

「……っ」

リリアの泣き声だった。

ルーファンスの足が止まる。

胸が、強く締めつけられた。

泣いている。

彼女も、泣いている。

それが分かった瞬間、今すぐ扉を開けてしまいたい衝動に駆られた。

「リリア……」

名前を呼びそうになって、唇を噛みしめる。

自分に、そんな資格はない。

彼女はもう、エリオットの妻なのだから。

やがて、部屋の中からエリオットの声が聞こえた。

「……無理に笑わなくていい」

ルーファンスは、静かに目を閉じた。

「君が忘れられない人のことを、僕は責めない」

その言葉に、ルーファンスの拳がさらに強く握られる。

エリオットも知っている。

リリアの心に、自分ではない男がいることを。

それでも、彼女を責めない。

「いつか君が心から笑えるようになるまで、僕は待つよ」

部屋の中で、リリアが小さく泣き声を漏らした。

しばらくして、扉が開いた。

エリオットが一人で出てくる。

そして廊下に立っていたルーファンスと、目が合った。

二人は何も言わなかった。

ただ、互いを見つめる。

エリオットは何かを察したように、静かにその場を離れていった。

ルーファンスは閉じられた扉を見つめた。

その向こうでは、まだリリアが泣いている。

ルーファンスは扉にもたれた。

そして、強く拳を握りしめる。

泣いてはいけない。

ここで涙を流してしまえば、もう自分を抑えられなくなる。

だから、必死にこらえた。

頬を伝いそうになる涙さえ、許さなかった。

ただ、扉一枚を隔てて愛する人の泣き声を聞きながら――。

ルーファンスは、声を殺して立ち尽くしていた。