『お前の特別になりたかった。』

昼休み。

五月の生温かい風が吹き込む教室の片隅で、僕は一人、教科書を開いていた。

 周囲からは、男子たちの下品で騒がしい笑い声が絶え間なく聞こえてくる。

「おい一ノ瀬! お前もこれ見ろよ。この人、マジで胸デカくね?」

「揉みしだきてー笑」

ドカドカと机を寄せてきたクラスメイトたちが、僕の顔の前にスマホの画面を突きつけてきた。

画面には、露出の多い水着を着て、カメラに向かってはにかむ女性の画像が映し出されている。

周りの奴らは、まるで世界で一番価値のあるお宝を見つけたかのように目を血走らせ、

あいつが可愛いだの、この太ももがエロいだのと、声を弾ませて騒ぎ立てていた。

中学2年。

14歳。

このくらいの年齢になると、男子たちの会話の9割はこういう話題に塗りつぶされる。

それが彼らにとっての「普通」であり、「男らしさ」の証明なのだ。

「……別に。興味ない」 

僕は画面から視線を外し、冷淡に言葉を返す。

「相変わらずクールだなあ、天才一ノ瀬様は」

「女子に興味ないとか、もしかして悟りでも開いてんの?」 

呆れたように肩をすくめて、奴らはまたスマホの画面の中へと戻っていく。

彼らに悪気はない。

ただ、僕をからかっているだけだ。 

だけど、僕の胸の奥には、笑い飛ばせないほどの冷たい泥がじわりと溜まっていく。 

嘘でも冗談でもなく、本当に分からないのだ。 

あの画面に映る滑らかな肌を見ても、クラスの女子たちの制服の隙間から覗く肌を見ても、

僕の心臓は一拍たりとも乱れない。

胸がときめくような感覚も、頭がぼうっとするような興奮も、何一つとして湧き上がってこない。 

――僕の身体は、どこかが壊れているのだろうか。 

誰もが当たり前に持っている『男としての本能』が、僕には欠落している。

自分だけが世界から切り離され、別の生き物になってしまったかのような強い違和感。

この悩みを誰かに相談すれば、きっと「あいつは変だ」「気味が悪い」と指をさされるに違いない。

色のない世界の中で、僕は自分の冷たい殻の中に閉じこもるしかなかった。