恋を知らない天才魔術師が、惚れ薬を作るまで



「先生は天才ですから、殿下の話を聞いて、恋がわかれば、惚れ薬なんてすぐ出来ますって!!」

「......」


車輪付き椅子に深く体を預けたユリウスは、考え込む素振りを見せながら、クルクルとその場で回る。

よし、もう一押し。


「先生が、惚れ薬完成させるところ早く見たいです。きっと、素晴らしい出来のものが出来ると信じています」


子供をおだてるように、わざとらしく声を上げると、ユリウスの動きが止まる。


「...ふん、そこまで言うならあの馬鹿に話を聞いてやってもいいだろう」


まだ若干納得してはいないようだが、褒められて満更ではなさそうだ。


「それじゃあ、先生。善は急げです。今すぐ王太子殿下を訪ねに行きましょう!」


機嫌を損ねる前に行動あるのみということで、ユリウスの腕を引き、椅子から立ち上がらせる。

例のごとく、頭がボサボサなので、整えるために手を伸ばすと、いつものことなのでユリウスが少し身を屈める。

念のために衣服に乱れがないか確認し、特に目立った汚れはなかったため、そのまま部屋の入り口まで連れて行く。


「それじゃあ、気をつけて行ってらっしゃい。寄り道しないでくださいね。道端の石ころに足を取られないでくださいね。ちゃんと前を見て歩いてくださいね」


およそ成人男性に言うべきではない言葉を連ね、ユリウスを見送る。

少し不服そうだったが、笑顔で手を振り続けていると、観念したかのように身を翻し、歩き始める。

ユリウスの姿が見えなくなると、イザベラはすぐに研究室の扉を閉める。

...子供の見送りかよ...。

まだ昼前だと言うのに疲労が一気にきたイザベラは扉に額をつけ、静かに息を吐いた。

少し早いけど、昼休憩にするか...。

ユリウスがいなくなり静かになった部屋で一人、イザベラはかなり温くなったコーヒーを一口飲み、一息ついたのであった。