恋を知らない天才魔術師が、惚れ薬を作るまで



「先生!?大丈夫ですか!?」


魔術書の山からユリウスを引っ張り出す。

大方、考え事をしながら椅子で移動していたため、目の前の障害物に気付かないまま突進したのだろう。

考え事に集中しすぎると、気付いたら命の危機にさらされていることなどしょっちゅうである。

イザベラの心配をよそに、ユリウスはすでに惚れ薬のことで頭がいっぱいなのか口元に手を当て、呪文のように小さく呟き続けている。

こんな状態になったらどんなに話しかけても返事が返ってこないので、イザベラはどうにかユリウスを起き上がらせ、上半身を壁にもたれかけさせる。

中身赤ちゃんのくせに、体は立派な大人なので毎回運ぶのに苦労するが、仕方がない。

この様子なら、そんな長い時間かけずとも惚れ薬を完成させるだろう。

なんせユリウスは魔術のことに関してだけは天才的なのだから。

イザベラは邪魔にならない程度にユリウスから距離を空け、しかし決して目を離さないように、中断していた書類作業を再開する。

そんなイザベラの予想に反し、数日経ってもユリウスが惚れ薬を完成させることはなかった。