恋を知らない天才魔術師が、惚れ薬を作るまで



「おい、聞いているのか」


少しだけ苛立った声が落ちるも、イザベラは書類を持ったままぼんやりと床を眺めている。


「イザベラ!」


気の立った大きな声で名前を呼ばれ、イザベラはやっと呼ばれていたことに気付き、顔をゆっくりと上げた。

無表情のままイザベラを見下ろすユリウスと目が合った。


「何をしている」

「......あっ、すいません。すぐ、片付けます」


反応が一瞬遅れてしまい、イザベラは慌てて床の書類に手を伸ばす。

しかし、手首を掴まれ、イザベラの動きが止まる。


「顔色が悪い」


ユリウスにはっきりとそう言われてしまい、イザベラは掴まれた手首を振りほどこうとするも力が出ない。


「そ、そんなことないですよ!昨日、ちょっと夜更かししてしまったので寝不足なだけです!!」


誤魔化すようにわざとらしく声を上げ、笑顔で返すも、ユリウスは手を放してくれない。

紫水晶の瞳に真っ直ぐ見据えられ、イザベラは思わずたじろぐ。

普段ならとっくに興味を失っているはずなのに、今日のユリウスは妙にしつこかった。

ここで体調が悪いと見破られてはいけない。

イザベラがいないと、この研究室はまともに機能しない。

だから、休むわけにはいかないのだ。