恋を知らない天才魔術師が、惚れ薬を作るまで



「惚れ薬を作ることになった」


王太子に呼ばれたと不機嫌そうに出ていってから数十分後、ますます不機嫌になって戻ってきたユリウス・フローベルがドアを開けるなり、そう言い放った。

ユリウスが放り出していた書類に目を通していた助手のイザベラは渋々顔を上げる。

どこで道草をしてきたのかはわからないが、さっき整えたはずのユリウスの落ち着いた色の金髪が乱れている。

小さくため息を吐きながら、読みかけの書類に保留の付箋を貼り、イザベラは立ち上がる。

ユリウスは大股で部屋の中に入り、入り口の向かい側にある自身の席へ一直線に向かった。


「...まったく、急ぎの案件だからとほざくから、わざわざ赴いてやったのに、惚れ薬の作成依頼とは...。時間と体力の無駄だった」


荒々しく車輪付きの椅子に腰を落とし、ユリウスは足と腕を組む。

まるで自主的に王太子の呼び出しに赴いた言い方をしているが、絶対に行きたくないと駄々をこねたユリウスを宥め、身嗜みまで整えたイザベラは小さく肩を落とす。

労力のわりに、成果がまったく見られない業務にイザベラは意気消沈しながら、コーヒーポットに水を入れる。

ポットの裏にはコーヒー生成の魔術陣が刻まれており、水を入れるだけで湯気が立ちのぼり、香ばしい匂いと共にコーヒーが出来上がる。

ユリウスは猫舌のため、更にここから冷まさなければならない。しかし、ぬるすぎても文句を言ってくるため、イザベラは慎重に温度を見定める。


「...それで、なんで惚れ薬を作ることになったんです?」