キスから始まる恋は甘くて苦い

「私は毎朝先輩の姿を見かけてましたよ」
「えっ、マジで?」

 その表情の変化がまぶしく、目を細める蒼一。

「はい。いつも目の前を通り過ぎていって」

 風のような人だなって思ってました。

 次のセリフは恥ずかしくて口にはできなかった。

「でも、今日はなかなか通らないからつい捜してしまったんです」

 ほたるの言葉に、蒼一の胸が締めつけられるように痛んだ。

 忘れ物をして良かったのかもしれない。

 タイミングがずれない限り、出逢うことはなかったのかと思うと……蒼一の心はなぜかざわついた。

「じゃあ、怪我の功名ってやつかもな」

 こんな気持ちになっていることを悟られないよう、おどけてみせる。

「そんな。怪我していいことなんてないです」

 すると、ほたるは顔色を変えて身を乗り出してきた。
 少し冗談が過ぎたのかもしれない。

「ほたるが怪我しなかったんだから、いいんだよ」

 反省しつつ、蒼一はなだめるようにほたるの頭を撫でた。

「よ、良くないです」

 名前で呼ばれたことと触れられたことで、ほたるの頬が真っ赤に染まっていく。

 なんでだろう――胸が苦しい。

「この程度で済んで良かったんだよ」

 そうやって穏やかな笑みを向けられると何も言い返せなくなる。

 ……優しい人だな。

 ほたるは泣き出しそうになり慌ててうつむいた。