キスから始まる恋は甘くて苦い

「名前は?」
「えっ?」

 突然の質問に目をみはって。

「俺は辰巳蒼一」
「永瀬……ほたるです」

 ほたるはつられたように名乗ってくれた。

「クラスは?」
「1-Cです」
「ふっ……」

 いちいち素直に答えるので、蒼一は思わず吹き出してしまった。

「俺は3-A。よろしく」
「え? はい、よろしくお願いします」

 言われるまま差し出された手を握り返す。その大きな手は、とてもあたたかくて。
 不思議とほたるの不安がほぐれていった。

「立てますか?」
「うん。おっと……危ない」

 手を引かれて立ち上がると、ほたるがよろけて蒼一はとっさに彼女の背へ手を回した。そして、抱き合う形で見つめ合うふたり。

「あ、ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとう」

 目を逸らしたほたるにつられ蒼一も視線を泳がせながら手を放した。
 気を取り直し、鈍い足の痛みを我慢しながら自転車を起こす。
 乗った方が楽だろうかと考えたけれど、ほたるを置いて先に行くわけにもいかない。

「じゃあ、行こうか」

 余計な心配をさせないよう、蒼一は痛いそぶりを見せずに歩き出した。ほたるは慌ててその横に並ぶ。

「学校に着いたら保健室に行った方がいいと思います」

 やはりよほど心配なのか、彼女の口調は有無を言わさない勢いがあった。

「昼休みにでも行くよ」
「一緒に行ってもいいですか?」

 のんびり答える蒼一とは対照的に、ほたるは間髪入れずに尋ねてきた。

「お願いします。心配なんです」

 重ねて懇願され、まあ正直嫌な気はしない。

「ああ、いいよ」

 ほたるの必死さが気になるところではあったけれど、蒼一は気分を良くして素直にうなずいた。