キスから始まる恋は甘くて苦い

 緊張してんのか?

 誘った以上はフォローしなくてはいけないと、責任感から焦りを覚える。蒼一が早足でほたるの元へ向かうとシュルシュルと衣擦れの音がした。

「大丈夫か? 足、崩しても平気だから楽にしな」

 片膝をついた蒼一が話しかけてくる。

「は、はい……」

 ほたるは照れくさそうにうつむいた。
 道場での、蒼一の存在感は別格だ。顧問も一目置いており、部員の信頼も厚い。
 その彼に気遣いを受けているほたるを、周りは不可思議に見つめている。
 その中で瞳と省吾だけは敏感に察知していた。
 彼女が蒼一にとって特別な存在だということを。
 省吾はようやく合点がいって薄く笑んだ。
 蒼一を知ったのは中学1年生のときだった。
 大会の個人戦で惨敗して以来、彼は省吾の一方的な宿敵となっている。
 悔しさから、心の中で揶揄するように『大将』と呼んでいる。

 大将も、人並みの男ってわけか。

 入部してから蒼一の人となりを観察してきたけれど、モテる割に恋愛には一切興味がない様子だった。だから勝手にストイックなタイプなのかと思っていた。
 その蒼一が、女子の後輩を連れてきた。それもいたくお気に入りのようだ。

 狙ってるのは永瀬じゃなくて、大将の方か。

 省吾は蒼一をそこまでさせるほたるを興味深く注視した。