キスから始まる恋は甘くて苦い

 放課後、部活動を行っている剣道場へ赴いた。
 蒼一は父親の影響で小学生の頃から剣道を習っており、現在剣道部の主将を努めている。
 道着姿にはなったけれど、稽古には参加せずに部員へ声掛けをする。
 日曜日に試合を控えているため、今日は大事を取るよう顧問に釘を刺されたのだ。
 竹刀の交わる硬質な音と、床を鳴らす踏み込みの音が道場に響く。
 部員たちの気合いが込められた声を聞きながら、素振りを始めた蒼一はようやく落ち着きを取り戻した。

 俺は浮かれてんのか?

 今朝からの行動を思い返すといささか恥ずかしくなり、手に汗がにじんだ。

 このまま突っ走ったら、失敗しそうだよな……

 形からでも冷静になりたくて、蒼一はゆっくりと竹刀を振り続けた。
 部活動を終えて駐輪場へ向かう途中、校舎から出てくる小柄な人影が見えた。

 ほたる、だ――

 一目見た、それだけで。
 胸に甘い痛みがかすめていく。
 時間をかけて戻した平常心もあっけなく崩壊する。走り出そうとした蒼一は強い自制心でその足を止めた。

 なんでその可能性を考えなかったんだ?

 男子生徒がほたるの隣に並ぶのを、遠目で見ていることしかできない自分に無力感が襲う。

 付き合ってるヤツがいるかもしれない、ってさ。

 さらに蒼一は相手の横顔を見て再びショックを受けた。

 しかも、麻生じゃねえか……