『……パパ、ママ、どこ?』
5歳のある日、パパとママが消えた。
翠を捨てた?置いていった?わからないけど、パパとママはどこにもいなくって、祖父母は翠を睨み付けていた。
『お前は、執事になるんだ。特別な仕事だ。世の中の優秀な方にお仕えし、傍につき、公私ともに支える大切な役目に必要なのは、優秀さと家柄。優秀な方の傍につくには、お前も優秀でなければならない』
─……その日から、私は執事となる訓練が始まった。
学業をはじめとし、華道、茶道、書道などの伝統文化、音楽、基本の給仕はもちろん、家事の全てや護身術に至るまで……楽しくはなかった。
外で遊ぶことは禁じられ、身につけるのは執事服のみ。
パパとママが買ってくれたお洋服やおもちゃは全部捨てられて、寂しくて、でも、泣くことも許されない。
塾に通った。学校での遊戯はしたことが無い。
私欲なんて求められていない。それは、視界を曇らせる。
一流でなければならない。結果が全てだ。
『謝罪をしている暇があるなら、結果を出せ』
謝る私に、祖父は言った。
祖父母は、翠を見ることはなかった。
少しの失敗も見逃してくれない祖父母が言うのは、『勉強はどうした』『結果は』そんなことばかり。
寝る前に、祖母は言うのだ。翠の頭を撫でながら。
『悪い子はね、執事になれないの。なんで、おじい様が怒っているのか分かるわよね?どうしてこうなったのか、誰が悪いのか……ね、わるいのはだあれ?』
─それは、ゆっくりと翠の心を蝕んでいった。


