「……あの子が幸せになれるのなら、私が貴方と契約結婚をしてもいいわ。何なら、死ぬまで夫婦でもいい。貴方があの子を囲っても、その間に子が生まれても、私は何も言わないし、一緒に可愛がれるわ。貴方にそんな感情、1ミリもないからね」
こちらのセリフだと言いかけて、透雅は桂華の真っ直ぐで、真剣な眼差しに言葉を呑み込む。
「だけど、翠は嫌がるでしょうね」
「……わかってるよ」
あいつが嫌がれば、それに何の意味もない。
「私と貴方の間に、恋なんて成立しない。あるとすれば、互いの利益優先の愛だけ」
「そうだな」
「だからこそ、翠は私を選んだと思うの」
「あ?」
「私は絶対、貴方を愛さないから」
ニコッ、と、桂華は微笑む。
「覚えているんでしょう。許せないのでしょう。だから、貴方は怒っているのでしょう。─どうせ今頃、どこかで泣いている翠に」
「……」
─昔、彼女が心を壊してすぐのこと。
桂華ではなく、分家の娘と見合いをした。
立場的に断れないこともなかったが、早めに婚約はまとめておくべきだという大人の圧力から、仕方無しに。
そして、その見合い相手を案内したのは、翠だった。
真っ赤で、震えていたあの子はいなくなった。殺された。
淡々とした、表情を変えずに案内をする翠。
(お前が、……お前がやるのか)
専属執事だ。当たり前だ。頭ではわかっている。
だけど、それを素直に従い、行う翠に腹が立った。
腹の底から湧く欲動は、手に入れた事実だけでは満たされなかった。─ああ、早く、根こそぎ自分のものに。
「……怖い顔、してるわよ」
呆れたように言われる。
口元を押さえて、湧く欲動に蓋をする。


