「……それで?貴方、苛立っているのね?」
強制的に設けられた、お見合い。
『この御方なら、問題無いでしょう?』
お見合いをしたくない透雅のため、どうしてもお見合いをさせたい翠が選んだ相手。
それは同じく名家で、幼い頃からお互いの空間は心地よいと、一緒にいた相手。端的に言えば、幼なじみ。
来栖桂華(クルス ケイカ)─巷で言われる、姫カットの見た目が特徴的で、その容貌も相まって、お淑やかなお嬢様を想像されるが、実際は人の悩みに対し、ニヤニヤ笑い、楽しそうにする性格が終わっている女である。
「翠がそんな言葉で、あなたに従うわけがないでしょう?あの、水無瀬家出身なのよ?」
水無瀬家─それは、この国で御三家と呼ばれる、来栖家、桐生家、東雲家に昔から仕える執事の一家だ。
徹底的なほどの、主人主義。
主人の為ならば、その命を捨てるまでの忠誠心は、御三家に重宝されている。
「大体、翠は幼い頃、私の執事になるはずだったのよ?あなたが奪っていったけど……」
「仕方ねぇだろ。俺が先に出会ったんだ」
「そうだけど、最近、年頃の男女が同じ部屋にいるのは問題だって騒がれていること、貴方は知ってるでしょ」
「誰が騒いでんだ?分家の奴らか?」
「そうよ。私の家なら、私が。東雲家なら、あいつが全部、黙らせるはずだもの」
あいつこと、東雲凪(シノノメ ナギ)は大人しいやつだが、情には厚いタイプである。
淡々とした性格だが、幼い頃、一緒に遊んでいた翠を気に入っており、妹のように可愛がっている。
「私達だって、翠が可愛くて仕方がないの。あの子は……心を強く塞いでいるから、届かないけど」
「……」
翠をあそこまで壊したのは、彼女の祖父母だ。
根底から、水無瀬家の人間である彼らは幼かった翠から、笑顔を、無邪気さを、わがままを、両親を奪った。
『ごめっ、ごめんなさいっ、ごめんなさい!いい子にするっ、いい子にするからっ』
そう言って泣き叫んだあの日、透雅は翠が失ってしまったものを知った。
勿論、主人主義な水無瀬家だからって、あの最低最悪な祖父母でも、自身の子の命を奪うような真似はしていない。
ただ、彼らを追い出した。翠から引き離した。
主人の為ではなく、恋人の為に生きることを望んだ息子を、そして、息子を誑かしたと言い切る、その恋人─翠の産みの母親を。
翠はまだ5歳だった。
望めば、失ってしまう。壊れてしまう。
自分が望みさえしなければ、それは平穏なのだ。
そう繰り返し実感してしまった幼子は、心を殺した。


