「……決して笑い事じゃないんだけどさ、基本的に飄々としている透雅にこんな顔をさせられる翠って、最強だよね」
「わかる」
翠は頑な。─それは本当にそうだ。
真面目で、真っ直ぐで、何かを抑え込んだ顔で、透雅の幸せを口にする。
(……俺のことを好意的に思ってくれているのは、間違いがないのに)
流石に長年向けられる視線が、色恋のそれか忠誠のそれか見分けがつかないほど、子どもではない。
「……隠れて泣かせたい訳じゃないのに」
透雅がそう呟くと、「うん」と、凪が相槌を打つ。
「俺のそばに居たい?死ぬまで?俺が結婚したら、専属は解消される?それは性別が異なるから、許されないから。─そんなん、あくまで水無瀬家のルールだ」
「そうだね。でも、翠は水無瀬家の人間だよ」
「この間の見合いとも呼べない、桂華とのお見合いですらひとりで泣いていたのに」
「泣いてたんだ?」
「隠していたけどな」
桂華は困っているような、愛おしいものを見るような、そんな複雑そうな表情で、
「泣かせたくはないなあ」
と、翠の可愛さからか、呟いた。
「俺が結婚しても、死ぬまで桐生家に仕えて、俺の子とかの世話がしたいって。でもきっと、奥様は許さないでしょうね、って言うんだ。困った顔をしながら、平然と。今の俺の妻は、あいつ自身なのに」
「あくまで契約だからこそ、透雅のことをずっと想ってきたからこそ、出る言葉よ。じゃなかったら、結婚なんて……翠が頷くわけがないでしょ」
悲しいけど、それが現実。桂華の言葉は正しい。
「たかがお見合いで、泣くほど嫌だと思っているくせに?」
「翠が執事になって初めて抱いた願いが、わがままが、透雅のそばに居ることだから。それを失うかもしれないのは怖いのだと、あの子は思っているかもね」
「そうね。凪の言う通り。恋なんてしたことがないはず。忠誠心と、あなたへの執着と、恋心が混ざりあって、ごちゃごちゃになって、あの子は迷子になってる」
「だから、翠は透雅が導いてあげなきゃ。どんなに時間がかかっても、翠は透雅のそばに居ることだけが、自分自身の存在意義だと信じて疑っていないのだから」
─その日は、幼なじみ達と遅くまで呑み明かした。
家に帰れば、翠は待っているだろう。きっと眠らずに。
何度言っても眠らぬ彼女にあるのは、忠誠心。
あの頑なな心を解くには、透雅は自分にこれ以上何が出来るのか、ずっと答えは出ないまま。
今日も、夜は明けていく。


