全てあなたに捧げるために



彼が愛してくれるから。守ってくれるから。
大切だ、必要だと、祖父母よりも伝えてくれるから。

「……」

─カランッ、と、透雅様のグラスの氷が音を立てる。

「あ、飲み終わりました?すぐにおかわりを」

立ち上がろうとすると、それを阻む大きな手。
グラスを奪い取られて、もう一度、翠はソファーに座る。
すると、彼の大きな手は翠の頬に触れた。

「……透雅様?」

何も言わない、そんな彼が少し怖くて。
名前を呼ぶと、彼は言った。

「おまえはおまえのままでいいんだよ。男で産まれればよかったとか、そんなことを言わなくていいんだ」

「……」

「どうして叶わない願いみたいに言う?叶えるよ。おまえが何を言おうとも、おまえは俺のだ。俺の執事だ。どちらかが死ぬまでそばにいて、離れることは許さない」

真っ直ぐな、苛立ちを孕んだ瞳。
綺麗だ。初めて会った幼い頃、見蕩れたみたいに。

「ですが、奥様が」

「おまえの存在を認めない女とは結婚するつもりもない。何より、俺に指示なんて出来る権限を与えるわけないだろ」

「それは、あまりにも横暴では……」

政略結婚になるだろうことはもちろんだが、それにしても、互いを認め合い、高め合うのが夫婦というものだと聞いたことがあるし、式では互いに多くのことを誓い合うくらいなのだから、それはあまりにも……。

「……その願いを、わがままだと言うな」

「透雅様?」

「俺以外に仕えるのは、絶対に許さない」

─否定出来ないくらいの圧に、翠は思わず笑ってしまう。

「あなたがそう言うのなら」

なら、例え、あなたの傍を離れる日が来たとしても。
私は他の方にお仕えはせず、生きていこう。

透雅様の為だけに生きて、全てを捧げると、自分は自分にあの日、確かに誓ったのだから。