全てあなたに捧げるために



「─……これは、透雅様」

「水無瀬、おまえ何で来栖家にいんの。おまえは、うちの筆頭執事だろ」

「今日は私用でして。─この孫娘を、来栖桂華様の執事として、お目通りを」

「ふーん……?」

こちらを見る、桐生透雅様。
優しくしてくれた、可愛がってくれた人。
視線は合わせてはならない。
目は伏せて、彼の許可があるまで、何の資格もない私は、言葉は発してはならない。

「…………ねぇ、この子、俺が貰っちゃダメなの」

「と言いますと」

「その言葉のままだよ。俺の専属じゃダメなの。おまえの孫娘なら、別にいいじゃん」

「ですが、まだ至らぬ所が」

「は?至らぬ孫を、来栖家にあげるつもり?至らぬ孫だと言って差し上げて、本当になにか仕出かしたら、御三家の間に亀裂が入るんだけど」

「……っ」

─大人を、あんなにも怖い祖父を圧倒する透雅さま。

「そんな失態、お前はしないよね。水無瀬」

「は……」

場が、緊張している。透雅様が、私を見ている。
言い聞かせるような言葉。

「─じゃ、俺が貰うね。おいで」

祖父の言葉を封じて、翠を軽々と抱き上げて。

「軽いね、おまえ」

優しい瞳。

「─あ、水無瀬。俺、桂華と話して帰るから。おまえは先に帰ってて。翠のことは桂華に俺から話すし、これからは翠は俺のそばに置くから」

問答無用。─どう対処していいのか。
逆らってはならない。主人の欲に従わなければならない。

でも、勝手な行動は許されていない。
祖父の方を見て、指示を仰ぎたかった。
どうすれば良いのか、教えて欲しかった。なのに。

「お前は俺のだよ」

透雅様が、後頭部を押さえるから。
翠は透雅の肩に顔を埋めるようになって、祖父なんて、視界の端にも映らない。

「─俺以外、見ちゃダメだからね」