「─……翠、」
「なんでしょう、透雅様」
「俺と、期間限定の契約結婚しねぇ?」
「……」
─危うく、ティーポットを落としそうになった。
この人は良く、洒落にならない冗談を口にする。
「御冗談を。─そのようなこと世迷言を言ってはなりません。今は目の前の釣書に目を通されませ」
「……」
「正妻をお持ちになるということは、桐生家嫡男であり、次期当主である透雅様にとって大切なことです。疎かにせず、御冗談で誤魔化されず、きちんとお考え下さい」
翠はため息混じりに、朝方、追加できた釣書を彼の前に置く。
「もし、釣書などではなく……好みの方が別にいらっしゃる場合は仰っていたければ、旦那様や奥様に私がお伝えいたしましょう」
「…そんくらい、自分で言うけど」
そう言って、彼はどこか不機嫌そうに釣書を投げる。
「あ、投げないでください。御行儀が悪いです」
「……お前は、俺の母親か」
「?、確かに、奥様には透雅様をお任せ頂いていますが……」
首を傾げながら、釣書を拾う。
すると、彼はこれみよがしに大きなため息をついた。
「そう意味じゃねぇよ。……まぁ、良いや。欲しい女を手に入れるまでの時間と思えば」
「は……」
「父さんに伝えてくるよ。お前と契約結婚して、その間にちゃんと後継者としての役目も果たすからって」
「……それに、契約結婚は必要ですか?」
「煩わしい”これら”から、少しは解放されるだろ」
彼は本当に、心底面倒くさそうに、釣書を見る。
「ですが、それなら私ではなくても」
「何?俺が決めたことに、お前が逆らうなんて珍しいね」
「っ……そんな、つもりでは」
……失敗した。余計なことを言った。
主人がそれを望むなら、喜んで応えなくてはならないのに。嗚呼、でもやっぱり、これがこの人の未来の汚点になってしまったら、と、そう思うと、賛同なんてできない。


