どこかで、誰かの恋がはじまる

どこかで、誰かの恋がはじまる
■募集職種
「専属の話し相手」兼「もしものときの緊急連絡先」
■勤務地
高校三年A組、窓際から二番目の席周辺
■応募資格
・幼少期からの勤続年数、十年以上(必須)
・素っ気ない態度の裏に、面倒見の良さを隠し持っていること
・相手の些細な変化に、誰よりも早く気づけること
■仕事内容
・毎朝の登校時、さりげない世間話の提供
・購買のパンを買い忘れた際の、緊急シェア対応
・進路相談、恋愛相談(自分のことは棚に上げがち)
・体調不良時の、過保護なまでの心配業務
■募集の背景
*
「――なあ、雫(しずく)。この求人票、お前が書いたのか」
放課後の教室、掲示板に貼られた謎の紙を見つけた高瀬(たかせ)蓮(れん)は、隣の席の幼馴染、雫に問いただした。
「気づいた? うん、私が書いた」
「なんでこんなもん、書いたんだよ」
「だって、蓮って鈍感すぎて、いくら態度で示しても気づいてくれないから。だったら、いっそ求人票にして、はっきり書いた方が伝わるかなって」
雫は悪びれもせず、そう言い放った。蓮は求人票を、もう一度、頭から読み返す。
■待遇
・毎日の何気ない会話(無給、ただしやりがいあり)
・困ったときは、必ず駆けつける(相互扶助制度あり)
・将来的には、恋人、あるいは伴侶への昇格制度あり
「……最後の一文、これ、明らかにお前の願望だろ」
「バレた? まあ、そういうこと」
雫は、少し照れくさそうに視線を逸らしながらも、まっすぐに続けた。
「単刀直入に言うね。蓮のこと、幼馴染としてじゃなくて、ちゃんと、一人の男の子として、好き」
■応募方法
「はい」か「はい、喜んで」のいずれかで、直接本人に回答すること。
求人票の最後に書かれた一文を見て、蓮は思わず吹き出した。
「なんだよ、この応募方法。選択肢、実質一択じゃねえか」
「気づいた? そういうことだから」
「……分かったよ。降参だ」
蓮は、求人票を丁寧に折りたたみながら、雫にまっすぐ向き直った。
「雫、俺も、ずっと同じ気持ちだった。この求人、喜んで、応募させてもらう」
「採用、決定ね」
雫は満面の笑みを浮かべ、蓮の手を取った。
■その後の勤務状況
十年間の勤続実績を経て、正式に「恋人」というポジションへ昇格した二人。以後の業務内容に、大きな変化はないが、毎日の何気ない会話に、少しだけ甘さが加わったという。
――第50話 完――