どこかで、誰かの恋がはじまる
夏休み最終日、遊園地は家族連れやカップルで賑わっていた。
「久宝寺(くぼうじ)くん、次、観覧車乗ろうよ!」
同じサークルの旅行企画で参加した一日、飯田(いいだ)真央(まお)は、はしゃいだ様子で観覧車の列に並んだ。隣にいる久宝寺(くぼうじ)陸(りく)は、少し気だるげな表情を浮かべつつも、素直について行く。
「真央、朝からずっとテンション高いな」
「だって、久宝寺くんと二人でこういうとこ来るの、初めてだし」
無邪気にそう言われ、陸は思わず頬が熱くなるのを感じた。二人きり、という言葉の意味に、真央自身は特に深い意図を持っていないらしい。それが逆に、陸をやきもきさせる原因になっていた。
* * *
観覧車のゴンドラに乗り込むと、二人きりの密室に、急に静けさが訪れた。
「わあ、めっちゃ景色いい! 久宝寺くん、見て見て!」
「ああ、綺麗だな」
窓の外の景色よりも、はしゃぐ真央の横顔の方に、陸の視線は自然と吸い寄せられていた。
「久宝寺くんって、あんまり感情表に出さないタイプだよね。今日も、ずっと落ち着いてるし」
「そう見えるか」
「うん。でも、たまに、私のこと見てる時の目が、なんか優しいなって思うことある」
不意な指摘に、陸は言葉を詰まらせた。
「……気のせいだろ」
「そうかなあ」
真央はくすくす笑いながら、窓の外を見つめ直した。ゴンドラは、ゆっくりと頂上に向かって上昇していく。
* * *
観覧車が最頂点に差し掛かった頃、真央がふと真剣な表情になった。
「ねえ、久宝寺くん」
「なんだ」
「今日、誘ってくれたの、サークルの旅行企画とは別に、久宝寺くんの個人的な提案だったよね」
「……ああ、そうだけど」
「なんで、私を誘ってくれたの?」
まっすぐな質問に、陸はしばらく黙り込んだ。ゴンドラの窓から差し込む夕陽が、二人の顔を茜色に染めている。
「単純な理由だ。真央と、二人きりで出かけたかった」
「それって」
「サークルの後輩とか、そういう関係じゃなく、ちゃんと、一人の女の子として、真央のこと、気になってる」
素直な告白に、真央は驚いたように目を見開いた。それから、じんわりと頬を赤らめながら、小さく微笑む。
「実は私も、今日、久宝寺くんと二人きりになれること、内心すごく楽しみにしてた」
「それって」
「私も、同じ気持ちってこと」
観覧車が頂上を過ぎ、ゆっくりと下降を始める頃、二人は自然と、隣同士の距離を縮めていた。
「なあ、真央」
「なに」
「この観覧車、もう一周、乗らないか。今度は、ちゃんと恋人として」
「……気が早いなあ、久宝寺くん」
真央はそう言いながらも、嬉しそうに頷いた。
「うん。もう一周、乗ろう」
夕暮れの遊園地、二人を乗せたゴンドラは、新しい関係の始まりとともに、再びゆっくりと、空へと昇っていった。
――第46話 完――
夏休み最終日、遊園地は家族連れやカップルで賑わっていた。
「久宝寺(くぼうじ)くん、次、観覧車乗ろうよ!」
同じサークルの旅行企画で参加した一日、飯田(いいだ)真央(まお)は、はしゃいだ様子で観覧車の列に並んだ。隣にいる久宝寺(くぼうじ)陸(りく)は、少し気だるげな表情を浮かべつつも、素直について行く。
「真央、朝からずっとテンション高いな」
「だって、久宝寺くんと二人でこういうとこ来るの、初めてだし」
無邪気にそう言われ、陸は思わず頬が熱くなるのを感じた。二人きり、という言葉の意味に、真央自身は特に深い意図を持っていないらしい。それが逆に、陸をやきもきさせる原因になっていた。
* * *
観覧車のゴンドラに乗り込むと、二人きりの密室に、急に静けさが訪れた。
「わあ、めっちゃ景色いい! 久宝寺くん、見て見て!」
「ああ、綺麗だな」
窓の外の景色よりも、はしゃぐ真央の横顔の方に、陸の視線は自然と吸い寄せられていた。
「久宝寺くんって、あんまり感情表に出さないタイプだよね。今日も、ずっと落ち着いてるし」
「そう見えるか」
「うん。でも、たまに、私のこと見てる時の目が、なんか優しいなって思うことある」
不意な指摘に、陸は言葉を詰まらせた。
「……気のせいだろ」
「そうかなあ」
真央はくすくす笑いながら、窓の外を見つめ直した。ゴンドラは、ゆっくりと頂上に向かって上昇していく。
* * *
観覧車が最頂点に差し掛かった頃、真央がふと真剣な表情になった。
「ねえ、久宝寺くん」
「なんだ」
「今日、誘ってくれたの、サークルの旅行企画とは別に、久宝寺くんの個人的な提案だったよね」
「……ああ、そうだけど」
「なんで、私を誘ってくれたの?」
まっすぐな質問に、陸はしばらく黙り込んだ。ゴンドラの窓から差し込む夕陽が、二人の顔を茜色に染めている。
「単純な理由だ。真央と、二人きりで出かけたかった」
「それって」
「サークルの後輩とか、そういう関係じゃなく、ちゃんと、一人の女の子として、真央のこと、気になってる」
素直な告白に、真央は驚いたように目を見開いた。それから、じんわりと頬を赤らめながら、小さく微笑む。
「実は私も、今日、久宝寺くんと二人きりになれること、内心すごく楽しみにしてた」
「それって」
「私も、同じ気持ちってこと」
観覧車が頂上を過ぎ、ゆっくりと下降を始める頃、二人は自然と、隣同士の距離を縮めていた。
「なあ、真央」
「なに」
「この観覧車、もう一周、乗らないか。今度は、ちゃんと恋人として」
「……気が早いなあ、久宝寺くん」
真央はそう言いながらも、嬉しそうに頷いた。
「うん。もう一周、乗ろう」
夕暮れの遊園地、二人を乗せたゴンドラは、新しい関係の始まりとともに、再びゆっくりと、空へと昇っていった。
――第46話 完――



