どこかで、誰かの恋がはじまる

どこかで、誰かの恋がはじまる
初恋の作り方(材料二人分)
【材料(二人分)】
・幼馴染 一組
・すれ違いの記憶 少々
・十年分の年月 適量
・偶然の再会 一回
・勇気 大さじ二
・素直な言葉 ひとつまみ

【作り方】
一、幼馴染二人を、同じ町で幼少期からじっくりと育てます。この時期は、些細な喧嘩や言い合いも、旨みのうち。焦らず、時間をかけるのがポイントです。
二、思春期に差し掛かった頃、片方の転校というアクシデントを加えます。ここで一度、二人の関係を大きく引き離してください。すれ違いの記憶が、後の工程で深いコクを生み出します。
三、十年という長い年月を、じっくりと寝かせます。この工程を焦って省略すると、後の再会の感動が薄れてしまうので、注意が必要です。
四、十分に年月が経ったところで、偶然の再会を一回、大胆に投入します。同窓会でも、地元の駅でも構いませんが、なるべく予想外のタイミングで加えるのがコツです。
五、再会した二人に、少しずつ昔の関係を取り戻させながら、様子を見ます。このとき、ぎこちなさが出るのは自然な反応なので、慌てず中火でじっくり進めてください。
六、頃合いを見て、勇気を大さじ二、一気に加えます。ここが最大の山場です。勇気が足りないと、初恋が生煮えのまま終わってしまうため、思い切りが肝心です。
七、最後に、素直な言葉をひとつまみ。「ずっと好きだった」のひとことを、ここで加えることで、全体の味がぐっと引き締まります。

【調理例】
「――颯、久しぶり。まさかこんなところで会うなんて」
十年ぶりに顔を合わせた凪咲なぎさは、目の前に立つ幼馴染の颯そうを見て、思わず声を上げた。
「凪咲か……! 変わってないな、雰囲気」
「颯こそ。全然、印象変わったね」
十年という寝かせ時間を経て、二人の再会は、ぎこちなさとともに始まった。何度か言葉を交わすうち、少しずつ、昔の距離感が戻ってくる。
「なあ、凪咲。この後、時間あるか。積もる話、色々あるだろ」
「うん、あるよ。……あの、颯」
「なんだ」
大さじ二杯分の勇気を振り絞るように、凪咲は続けた。
「ずっと、言えなかったことがあるの。転校する前、颯のこと、好きだった。今も、多分、変わってない」
素直な言葉のひとつまみが加えられた瞬間、颯の表情が、驚きから、じんわりとした喜びへと変わっていく。
「――俺も、同じだ。十年間、ずっと引きずってた」

【完成】
これで、「初恋」の完成です。仕上がりには個人差がありますが、じっくりと時間をかけて育てた分だけ、深い味わいになることをお約束いたします。お好みで、これから先の「日常」というデザートを添えて、末永くお召し上がりください。