この人は何考えてるんだろう。
昔のことを恨みつらみ言うでもなく、かと言って関わりを断とうとしない。
「やだ、じゃないけど今日はとにかく帰りたい」
「ふーん…」
夏は、気分を害するようなあからさまな表情こそしないが、何を考えているのか
しばらく雪の顔をじっと見つめている。
綺麗な顔で見られると落ち着かない。
目がコンプレックスなんて言ってるけど瞳も含め顔面は淡麗。前世はきっとアイドルだ。
夏は数秒の後視線を雪から外し、「まあ、解散でいっか」と一つ頷いて言った。
「じゃあ」
「うん」
またね…なんてこちらも向こうも言わなかった。
次なんかない。完全に終わりだ。
途中まで歩き、ふと振り返ると夏がこちらを見ていた。
振り向くと思わなかったようで、夏は少し目を見張って、気まずさを紛らわせるかのように片手を軽く振った。
真顔と笑顔の中間くらいの表情で。
そんな姿も様になっちゃうからイケメンは得だ。
軽く振り返した手を下ろした雪は、もう振り向かずに歩いた。
まだ夏は見送ってくれているんだろうか。
振り向いて確かめたいが、もしまた目が合ったら平常心を保てる自信がない。
カツカツとヒールの音を立てながら少し早足に歩いていく。
子どもと走り回る職場ではスニーカーしか履けないので休日だけ愛用しているお気に入りのハイヒール。
ワンピースも、数着ある中から自分が一番見栄え良く映るものを鏡の前で悩みながら決めた。
ピアスもネックレスも、ワンピースとのバランスを考えながら選んだ。
メイクも念入りに、地味すぎないように派手すぎないようにナチュラルメイクを心がけた。
今朝の自分を振り返り、馬鹿馬鹿しくなってしまう。
相手があれじゃあね…。
雪は、初めて長谷川 夏に会った日のことを思い返した。
