Fahrenheit Ⅳ


「お帰り~どうだったTUBAKIウェディングさん」と何も知らない啓がのんびり聞いてきて


「どうもこうも、色々大変でした」


あたしはアザールとローズウッドの件を聞かせると


「えー、そりゃ大変だなぁ。でもコネがあるって?」


「ええ、個人的なコネ、って言うか友人みたいなものなので頼み込めば何とかなりそうなので」と手を軽く上げると


「さっすが柏木さん」と佐々木さんが軽く手を叩く。


もう、みんな他人事だと思って……と思ったけれどあたしはこの部署で働くのが


嫌いじゃない。


20XX年12月29日 木曜日


今日は仕事納めだ。


どの部署もこの日ばかりは定時に上がる。外資物流も例外ではない。


「本年もお世話になりました。来年もよろしくお願いいたします」と瑞野さんがお辞儀をして、それに倣い佐々木さんも同じ言葉できっちりと頭を下げる。


「おう、こっちも世話になったな~来年もよろしく。よいお年を」


「それでは私も。本年はお世話になりました。よいお年を」と啓に頭を下げ帰ろうとすると


「あ、柏木さん……」と呼び止められた。


あたしが顔を上げると


「あのさ……カウントダウン誰かとするの……?」とまるで子供が親の顔色を窺うように見られ


「いえ。一人ですが」とそっけなく答えると


「え、そうなの。寂しくないの?」とまたも質問されて


「別に、去年も一人でしたから」と事実を述べると啓は少し困惑した様子を見せた。


確かに、去年のカウントダウンは一人だった。マックスと離婚裁判中。あたしは一人アパートメントでシャンパンを飲みながら、窓から打ちあがる花火を眺めていた。あの時はまだ心音もジョシュと別れていなくて、カウントダウンパーティーに出かけていたっけね。誘われたけれどそもそもパートナーがいないし、騒がしい所は好きじゃない。


「そっか……」啓は尚も何か言いたそうにしていたけれど、これ以上彼の口から何か求められると抗えない。


「あ、あのさ」とまたも問いかけられたとき、次にどんな質問が飛んでくるか少し構えた。が、


「ダンス、あれから結構練習して様になってきたね。次の出勤は新年会だからそれまで一日だけでもいいから最終チェックしない?」


最終チェック?


確かにクリスマスが終わった後、マルーナホテルを借り切って猛特訓したおかげか、啓の言う通りだいぶ様になってきた。問題の段差も感覚を掴んで今は落ちることは殆どない。


でもこれから休暇に入るしやはりブランクと言うのは生じる。


啓の言う通り直前にもう一度最終練習をした方がいい。


「分かりました。日程は後日報告します。それでは、失礼いたします」やや機械的に言ってあたしはブースを後にした。


仕事はじめは1月5日だ。長い休みだ。今まで残業ばかりの仕事でプライベートらしいことを何もしてこんなかったからこんな長い休暇に戸惑う。


一体何をしていいのやら。


そうだ、と思い立っていつも心音が日本に来てくれるから今度はあたしがNYに行けば、と思い立ったもののNYへの飛行機便は生憎だが空きがなかった。


みんな長い休暇を利用して旅行をする気なのだろう。


一人旅でも、と思って色々調べたがやはりどこも一杯で空いてる宿やホテルはあまり良い所ではない。


こういう時って案外寂しいものね。