Fahrenheit Ⅳ


その後、あたしは心音に電話を掛ける為寝室に向かった。再び紫利さんにユーリを預けることになったけれど、ユーリは一日ぶりに会う母親を恋しがったが「Mom, I'm at work. I'll hang up soon.(ママ、お仕事だから。すぐ終わるわ)」と言うと大人しく頷いた。


『Hllo~(ハッロ~)』心音はご機嫌に電話に出た。この様子だと心音はCCがうちから手を引いたこと知らないようね。


「Ah……心音…」心音はあたしの為に頑張ってくれたって言うのに、全て水の泡になってしまってなんて説明すればいいのか。額に手を当てうろうろとみやみやたらと裸足のまま歩いていると


『あんたの言いたい事は分かるわよ。CCが手を引いたって?』


あたしは足を止めて思わず顔を上げた。


「知ってたの?」


『Yeah,ジェイクから電話が来たわ。『I'm so sorry I couldn't keep my promise.(約束を守れずすまなかった)』って。案外律儀な所があるのね。益々気に入ったわ』


心音―――明るく喋ってるけど、きっと彼女だって悔しかった筈。


『で?次の手はあるの?もう出尽くしたわよ』


あたしの頭の中でそれぞれの人物の顔を思い浮かべ、点と点が線を結んで、あたしの描いた物語(ストーリー)にそれぞれの顔を結び続ける。それは複雑に絡まっていて、いっそのこと一刀両断に切り分けてやりたいがそうはいかない。


『まだ一つだけ残ってる』


あたしは正月から一人で遊んでいたチェスの白いナイトの駒を指でつまんで宙にかざした。


『何?』と当然聞かれるわけで





『最初から狙いは”あたし”だったのよ。”あいつ”にしてやられたわ』




この言葉を聞いて心音が息を呑む気配を感じた。


『でも”あいつ”も二村のぼーやが二人を別れさせることなんて予想できた?』


『それは”あいつ”にとって棚ぼたって感じね』白いナイトの駒を手に強く握る。壊れてしまいそうなぐらい。


『棚ぼた?』


『たなからぼたもちが落ちて来るように偶然の幸運がやってくるってこと』と説明すると


『はぁ、なるほどね……』と心音も小さくため息を吐いた。


『瑠華、答えを出すにはまだ早いわ。もう少し考えよう。偽のオークションの件だって最後のカードに成り得るわ』


そうかもしれない。


でもそれだけじゃカードが足りない。これまでの行動から二村さんはいくつも逃げ道を作っている筈。


心音に言われたけれど、もうあたしの心は決まっている。


掌を広げると白いナイトは壊れることなく横を向いていた。





これがあたしの最後の駒―――





『とりあえず、今はユーリとの生活を楽しんで、後のことは後々考えよう?』


そうのんびりしていられないのが現状だ。


あたしはぐっと手に力を入れた。


ひとまず最後の打開策は残っている。心音は渋っているけれど、これしか方法がない。


扉の向こうで「Mom?(ママ?)」とユーリの小さな声が聞こえてきた。


「ユーリが呼んでる。また連絡するわ」


『あ、ちょっ…』と最後まで言い切らないうちにあたしは電話を切った。