Fahrenheit Ⅳ



♥Ruka♥


CC……ジェイクが手を引いたと言うことを啓が思ったより早く知った。


きっと会長室に報告に行った際、おじさまか綾子さんに聞いたに違いない。


急がねば。


でもただ急ぐだけじゃない。”相手”もこうなること分かっていたに違いない。それなりに動いているのだろう。


今、あたしが下手に刺激したら”相手”の思うつぼ。


慎重にならねば。


逸る気持ちを抑えて、今はあたしの家の近くのファミレスで葵さんと待ち合わせ中。


葵さんはリクルートスーツに黒いコート姿で現れた。


見慣れない恰好に一瞬誰だか疑ったが、「瑠華ちゃ~ん」と呼ばれて間違いなく葵さんだ。


「どうしたんですか、その恰好」


「ん。今日面接三社行ってきた。あんまり手応えなさそうだったけどね。高校も出てない俺なんてやっぱ無理なのかなぁ」と葵さんは若干疲れを滲ませた声でテーブルに突っ伏す。もう諦めモードだ。


「職種が問題なのでは?大企業を狙っても今はまだ学歴社会。経験もそこそこないと雇ってもらえませんよ」と言うと


「分かってる。だから中小企業に的を絞ってるんだけどさ。これでもダメならどこかの運送会社の配達ドライバーにでもなろうかな。運転嫌いじゃないし」


まぁ確かに葵さんは運転が上手だった。


現実を目の当たりにしたのか葵さんはがくりと頭を折る。就職氷河期と言われた時期もあった筈だが、今はそれ程でもない筈。しかしやはり学歴の壁は高そうだ。


ドリンクバーで取ってきたカフェオレを飲みながらの葵さんに


「まだ希望が無くなったわけじゃないですか。今日の三社だってどうなるか分からないし」と言うと


「瑠華ちゃん、今日は珍しく優しいね」とうつろな目をあたしに向けてきた。


珍しく優しい?


酷い言い草ね。


「そうだ、今日は葵さんにお土産を買ってきたのです。それを渡したくて」と言って、あたしは村木さんに買ってきたのと同じお饅頭の箱を手渡すと


「鹿せんべいじゃなくて良かった」とちょっと苦笑い。「ねぇ、出張って同僚と行ってきたんでしょう?空汰から聞いた」


ああ、そこのとこの情報も筒抜けね。


「ええ、それが何か?」とコーヒーのカップに口を付けると


「例の”K”って男も一緒だったんだろ?」


「そうでしたが、他の同僚も一緒だったし何か問題でも?」


「問題……なかったの?」


「あるわけないじゃないですか」とちょっと眉間に皺を寄せる。


嘘がどんどん重なって、あたしの中を黒く黒く染め上げられる。それは最初は真っ白だったのに、少しの墨を垂らしただけの状態が、今は限りなく黒に近くなっている。


けれど不思議と心苦しいとは感じなかった。


だってあたしたちはお金で繋がっているだけの軽い関係だもの。