Fahrenheit Ⅳ


「何でこのタイミングで。株主総会はもうすぐだぞ」


俺が眉間に皺を寄せると


「よく分からないけど、CCにインサイダー取引の可能性があるとかで、どこからか圧が掛かったみたい」


「こっちは?CCと手を組んでたらこっちも疑われるだろ」


「幸い、こっちには飛び火していない状態よ」


CCだけ圧が掛かって、俺んとこは無事―――?


何だか腑に落ちない。


「その圧って言うのはどこからか分かるか?」


「さぁ知らないわよ。ただ向こうの日本語通訳ができる人から一方的に電話が掛かってきて、これまた一方的に手を引くって」


何だよそれ。


これじゃゼロに戻っちまったじゃねぇか。


どこかうさん臭いヤツだとは思ってたが、大株主だったヤツの存在は僅かな希望の光だったのに。


「なぁ、綾子。急ぎ奈良支社の木藤支社長と連絡取れるか?」


「木藤支社長?私は会ったこともないし接点もないわ」


そっか……やっぱ瑠華を頼るしかないか。


部署に戻り定時になると、それぞれ帰ることにした。皆疲れてるだろうし。


コートを着こんで帰ろうとする瑠華の後を俺は不自然じゃない程度に追って行った。


「瑠……柏木さん!」瑠華を呼び止めると、瑠華がゆっくりと振り返った。


「何か?」と目が物語っていた。


「ジェイク・ダリスが手を引いたらしい。君は知っていたのか?」


瑠華は黙り込んだ。


俺は瑠華の細い両肩を掴み


「やっぱり君とジェイク・ダリスは繋がっていたってこと?」


「違います」瑠華は俺の手を払って「おじさまからそう聞いただけです。出張中に電話で」


親父から―――?


そう言えばジェイク。ダリスの通訳をしたのは瑠華だ。その後親父と三人で料亭にも行った。親父が瑠華にそう報告するのは筋が通っていると思えるが。


CCに一体どこの誰が圧を掛けたって言うんだ。CCよりもっとでかい組織―――


もしかして―――


「ヴァレンタイン?」俺が聞くと瑠華は無表情に


「さぁ。私は何も聞いてません。そもそもヴァレンタインとCCには共通点がありません」


そうなのか―――?


「すみません、私は何も知らないので、これで」と瑠華はやや冷ややかに言って頭をちょっと下げエレベーターに乗り込んだ。