Fahrenheit Ⅳ


いつだったか、新年会のダンスを思い出す。ステージで二人きりの世界。光の中の世界であたしたちは見つめ合った。


今も―――二人っきりの世界。


このまま時間が止まってしまえば……と思っていると


ピンポーン


部屋のインターホンが鳴った。


誰?


あたしと啓は思わず顔を合わせた。裸の上に慌てて浴衣を着るとドアスコープから外の様子を窺った。こちらを覗いていたのは佐々木さんで


「佐々木さんです!」と慌てて振り返ると


「は!マジで!?」


「と、とりあえずクローゼットに隠れて」啓は裸のまま浴衣だけを手に狭いクローゼットに入り込んだ。


おずおずと扉を開けると


「すみません、こんな時間に」と佐々木さんが申し訳なさそうに頭を下げる。


あたしは乱れた髪を直しながら


「ええ、どうしました?」


「それが、部長の姿が見つからず。もしかしたらこっちに来てません?」


ちょっと虚を突かれて目を開くも、あたしは唇を引き締めて


「何故部長が私の部屋へ?」


「そ、それもそうですよね~、何となくそう思っちゃって」


「タバコでも吸いに行かれたんじゃ?子供じゃないしそのうち帰ってきますよ」とそっけなく言うと


「そうですよね…すみません、夜遅くに…」と言い残し佐々木さんは帰って行った。ドアスコープから完全に佐々木さんが消えるのを見てあたしはクローゼットをノック。


「行きましたよ」と言うと啓は裸のまま下半身だけを浴衣で隠しながら何とも滑稽な姿でおずおずとクローゼットから顔を出した。


思わず顔を合わせてあたしたちは笑い合った。


二人きりで笑い合うのなんてどれぐらいぶりだろう。


その瞬間ですら愛おしい。あたしは啓に抱き着くと




「愛してます」



そっと囁いた。


「俺も―――」




愛してる



その言葉はあたしが唇で遮った。


愛してる





だからあたしは最大のカードを切ることに決めた。


啓を守るために。